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+++ ある春の物語 (5 +++

決戦当日の早朝、すっかり傷の癒えた青蛇のグレートが呟く。
「時は満ちた」
「さて、行くか」気合いを入れる大鷲のアルベルト。
「おぅ、この時を待ってたぜ。俺の仲間たちも大分ヤラレちまったからな。敵討ちだ」
背中の羽をブンブン言わせ、ひょいっと飛び上がるミツバチのジェット。
「わての仲間もアルヨ!絶対許せないアルネ」
モグラの張々湖の頭からは湯気が出るほど殺気立っている。
「昨日の作戦通りだ。みんな頑張ろう」
作戦を再確認する、山猿のピュンマ。
「ウム」一言だけで、その意気が伝わってくるヒグマのジェロニモ。
「よし!行こう!」特に被害を受けているわけではなかった雄花の精ジョーだが、
その心には冒険心と正義感、そして彼が持ち合わせている大きな勇気で漲っている。
ジョーが大鷲のアルベルトの背中に乗ると、大きな翼を広げて空へ飛びだった。
「標的、オオイノシシ、西の洞窟だ!」
ジョーの一声で一斉に西を目指して進む仲間たち。
その頃、昇り始めた太陽に一心不乱に祈りを捧げるフラン。
「みんな・・・無事でいてね」



「さて、洞窟が見えてきたぜ」
優雅に空を飛ぶ大鷲のアルベルトがいち早く洞窟の側までやって来た。
「あれか・・・」
洞窟の近くには大きな大木があり、その大木を初めて目にしたジョーは目を奪われていた。
森の守り神と言うだけの事はあるその大木は、黄色味掛かった、
大木には似合わないような小柄な花が無数に咲き乱れている。
その花の散った後には、まだ青々しいが幾つかの果実がなり始めていた。
一足遅れてやって来たミツバチのジェットが、それを目にして言う。
「早く奴を倒さないと、果実が熟しちまうな」

「さて、作戦通りに戦闘開始アルネ」
モグラの張々湖が大木近くに大きな落とし穴を作り始めた。とても原始的である。
「それがしがオオイノシシの様子を見てくる」
そう言うと、青蛇のグレートが洞窟の中へ入って行った。
「グレートだけじゃ心配だな。僕も行ってくる」
雄花の精ジョーはグレートの体の事を心配してのことであろうか?
それとも・・・・?
「わわわわわわぁぁぁ!!!」
ジョーが洞窟の入り口まで辿り着く直前に洞窟の奥からグレートの叫び声がした。
「グレート!?」
その声に走り出したジョーの後を仲間たちが続く。
真っ暗な洞窟からは大きな大きな見たこともないようなオオイノシシが現れた。
その名に相応し過ぎるくらいのイノシシが青蛇のグレートの尻尾を加えて振り回し、軽々と放り投げた。
「グレート!!!」
倒れたグレートの側に駆け寄るジョー。
「大丈夫だ。すまない気付かれちまった」
ドスンドスンドスン!!
地響きがする程の巨体のオオイノシシが、二人目掛けて突進してきた。
ジョーは、ミツバチのジェットから譲り受けたアシナガバチの剣(つるぎ)を抜き、颯爽と立ち上がった。
「やーーーーーーー!!」
オオイノシシの牙とジョーの剣がぶつかり激しい金属音に近い音を森に響かせた。
「こん畜生!!」ミツバチのジェットの毒針攻撃。
大鷲のアルベルトの鋭い爪がオオイノシシノ背中を突き刺す。
ヒグマのジェロニモが唸りながらオオイノシシノ体に捨て身で体当たりする。
山猿のピュンマは前々から用意していた岩を、洞窟の上の崖からオオイノシシ目掛けてゴロゴロと転がし、
青蛇のグレートは猛毒の牙を突きつけた。
だが誰の攻撃も殆ど歯が立たず、苦戦は続いた。

「ちくしょー、これじゃ切りがないな」
大鷲のアルベルトが顔を歪め厳しくオオイノシシを睨んだ。
そしてオオイノシシノ視線が大木の果実に向いていることに気が付いた。
「いかん!!果実を揺すり落とす気だ!!」
その声とほぼ同時にオオイノシシが大木目掛けて突進した。
ドカーーーーン!!ドカーーーーン!!
その振動にオオイノシシの体から振り落とされる仲間たち。
「うわわわわー」「アヤヤヤヤ」「わあああああ」
咄嗟にジョーはオオイノシシの牙にしがみ付き頭によじ登ると、鋭い剣を振り翳し敵の目を目掛けて突き刺した。
「こんな奴に・・・やられてたまるか!!」

「ゴガァアァァァァァァァァ!!」

そのままジョーは剣ごと振り飛ばされ、鈍い音を立てて地面に激しく叩き付けられた。
ドスッッッ「うっ・・・・」
「大丈夫か!?ジョー!!」
仲間たちが駆け寄りジョーを案じた・・・その時、
片目を潰されたオオイノシシが怒りを剥き出しにしてジョーたち目掛けて再び突進してきた。
「グワァァァァァァァァァ」
大鷲のアルベルトがジョーを救い上げてはばたき、他の仲間はそれぞれに散る。
まさに間一髪であった。

「ジョー大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫、これくらい」
オオイノシシに叩き付けられた衝撃で、かなり辛そうな表情が伺える。
「お前は、ここに居ろ。後は俺たちで何とかする」
そう言って、アルベルトは茂みにジョーを避難させた。
「大丈夫だよ、アル!僕もみんなと一緒に戦う」
「無理するな、元々お前はこの戦いには関係ないんだ」
アルベルトの言うように、ジョーは森の住人ではなかった・・・だが・・・。
「だって・・・君たちは、僕を・・・必要として、僕の力を試したんだろ?
だから・・・僕らは・・・仲間になったんだ」
痛みを堪えて自分も、と立ち上がるジョーを見てアルベルトは言った。
「巻き込んで・・・・すまなかった・・・」
大きな翼を広げて、戦う仲間の元へ飛び立った。
「待って!待ってくれ、アル!!!!」

茂み向こうから仲間たちの苦戦が、ちらついて見えている。
ジョーは自分の手に握られた剣をじっと見つめ、
「僕だって・・・僕だって、仲間だ・・・」
自分に言い聞かせるように呟き、茂みの間から見え隠れするオオイノシシを見据えた。
その時、ドカーーーンと言う大きな音がして、樹齢500年の大木が音を立てて倒れてゆく。
不思議な力を持つという果実を口にすれば、どんな力を発揮するのかは分からなかったが、
そこまでしてオオイノシシが手に入れたい代物だとすれば、相当な力を手にするに違いない。
ジョーは、しっかりと立ち上がった。
「僕だって、仲間だ。仲間なんだーーーーーー!!」

オオイノシシが不思議な力を持つ果実を口にする寸前、
雄花の精ジョーはオオイノシシに立ち塞がった。
「ジョー・・・」
仲間たちは立っているのに精一杯であろうジョーに目を向けた。
「そうだろ?みんな、仲間だよね?」
「・・・・ああ、そうだ。仲間だ。だから・・・よせ、そこを・・・」
仲間たちの背筋に緊張が走った。
オオイノシシは、自分の片目を奪ったジョーを睨み殺気立った。
「グゴガァァァァァァァァァァ」
「わああああああああああ」



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