<< Back   Next >>

+++ ある春の物語 (3 +++

日差しの殆ど差さない森にもやがて夜がやって来た。
ジェットは交代制の女王蜂の世話をしなければならず、一時巣に戻って行った。
傷つき眠る青蛇のグレートの身を案じ、すぐに危険を察知できるよう意識を置きながら
雄花の精ジョーもその場で休むことにした。
「オオイノシシ・・・か」
まだ見ぬ敵を脳裏で探りながら・・・。

翌朝ジョーが目を覚ますと、グレートの傷は幾分良くなっていたが、まだ油断は禁物だった。
僅かな日の光にさらされ眠っているグレートをそのままにしておくのは危険なので、
安全な場所へ移動しようと試みたが、せっかく眠っているのを起こすのは哀れに思えた。
だが蛇を好む鳥に見つかっては一溜まりもない。
そこで、青蛇と同色の葉でグレートの姿を隠してやることにした。
青蛇のグレートから付かず離れずの周囲で葉を掻き集めるが、その動作に気を取られ、
一瞬グレートから目を離してしまったその時、
大きな強い風でジョーは吹き飛ばされそうになった。
「うわあ!」
咄嗟にしがみついた根のしっかりした草のお陰で何とか喰い留まった。
そしてグレートに目をやると・・・・。
「!!!!!!」
翼を広げた大鷲が今にも青蛇のグレートに襲いかかろうとしている。
「待て!!!」
息付く暇もなく手元にあった小枝を剣(つるぎ)に見立て、立ち向かってゆくジョー。
すると大鷲は翼を翻し、雄花の精ジョーに怪しく光る目を向けた。
鋭いくちばしで襲いかかる大鷲に、負けじと小枝の剣で戦うが、
大鷲のスピードには雄花の精ジョーはついてゆけなかった。
小枝の剣と大鷲の爪がぶつかり合い、森に低く鈍い音が鳴り響いた。
その音に目を覚ました青蛇のグレートは、激しく戦う二人の様子を苦笑うように見つめた。
「ちくしょうー!!!」
渾身の力を込めて振り下ろした小枝の剣は、大鷲に一撃を与え砕け折れた。

「ふっ。なかなかやるな、雄花の精ジョー」
「む。な、何故僕の名を!?」
びっくりして瞳孔の見開いたジョーに、冷めた笑みを浮かべて己の名を説いた。
「俺の名は大鷲のアルベルト」
ジョーは一体何がどうしたのか分からない顔つきのまま、
折れた小枝の剣をまだしっかりと握りしめ構えている。
「安心しろ。もう、襲った『振り』なんてしないぜ」
「振り!?何故そんなことを!?」
「お前さんの腕を確かめたかっただけだ」
大鷲のアルベルトはニヤリと口元を歪めた。
青ざめたままのジョーの背後から青蛇のグレートが声を掛ける。
「ジョー、すまないな・・・」
その声に振り返ると、申し訳なさそうに言葉を吐きだしたグレートが居た。
そして、低く落ち着いた声で大鷲のアルベルトが説明した。
「お前がここに居るとジェットから聞いてな。例のイノシシ野郎をぶっ潰そうと思った訳だ」
ようやく剣を下ろすと、ジョーはほっとした表情で肩を撫で下ろした。
「ふぅ・・・人が悪いな。みんな(人じゃないけど)」

「よし、メンツは揃った。後はグレートの回復を待つとするか」
そう言って大鷲のアルベルトはジョーの背中を軽く叩いた。
「アルベルトとジェットとグレートと僕で?」
「いや、仲間はまだいる。すばしっこい動きの山猿のピュンマと
土の中を得意とするモグラの張々湖、怪力のヒグマのジェロニモだ」
「よろしくな!ジョー」
「よろしくアルヨ、ジョー」
「ヨロシク、ジョー」
それぞれ木々の隙間からと土の中から顔を出した初めて会う仲間からの挨拶に
少し戸惑い気味な表情のジョーだった。
「う、うん。よろしく」

「遅くなってわりーな」
ミツバチのジェットが交代制の女王蜂の世話から解放されてやって来た。
「ああ、ジェットか。まだグレートの傷が完治していないから、
もう少しゆっくりでも良かったんだぜ」
その言葉に即座に言い返すジェット。
「おいおい、俺はそんなに扱き使われたんじゃたまんねーよ」
ニヒルな笑みを浮かべて大鷲のアルベルトは翼を広げた。
「それじゃあ、俺はその辺を見回ってくる」
そう言いながら空へと向かってゆくその姿は、一段と大きく見えた。

「グレート、調子はどうアルカ?」
モグラの張々湖が青蛇のグレートを覗き込むと、
真っ赤な舌をペロリと出して張々湖の鼻先に突き出した。
「わわわ!何するアルネ!食べたら駄目アルヨ!」
びっくりして後ずさりするモグラの張々湖。
「こんなまずそうなモグラを食ったら腹を壊すよ」
と、戯けて見せるグレート、それに負けじと対抗するモグラの張々湖。
「何言うアルネ、うまいアルヨ!」
「じゃ、一口食わせておくれよ」
「食べたら駄目アルネ!」
「腹を壊すからな」
「違うアルヨ!」
「○▽×☆!!」
「◇◎★□!!」
・・・・・・・・・
その切りのない醜い争いを見て、首を竦め呆れる仲間たち。
もちろん止める者は誰も居なかった。雄花の精ジョーを除いては。
「ダメじゃないか君たち。そんなことで喧嘩しちゃぁ・・・」
「じゃぁ、ジョーはどっちが旨いと思うアルネ?」
「え・・・・」
「△■○×!!」
「◎☆◇▼!!」
やんややんや・・・やんややんや・・・・・・・
「ちょ、ちょっと・・・ってば・・」
ジョーにも火の粉が降り懸かり、話が全く違う方向へ進んでいったことは言うまでもないだろう。
その日もこんな状態で日が暮れてくゆのだった。



<< Back   Next >>
<< Menu >>