風の精イワンに運ばれた着いた森は、鬱蒼と葉が茂り、日の差し込む隙間もないほどだった。 「ココダヨ。ジャアボクハ、ツギノシゴトガ アルカラ イクヨ」 イワンはそう言い、ジョーを残しまた別の場所へと移動していった。 「ありがとうイワン!」 見えない相手に手を振るジョーの目は、興奮と期待で輝いていた。 「よし!行くぞ!」 一人気合いを入れるジョー。一体この森にはどんなモノが待っているのか。 去年ジョーが目を覚ましたときには側に雌花の精フランが居て、 危険な冒険をする雄花の精ジョーのことをいつも心配していたのだ。 その彼女は今、広い平原でジョーが現れるのを待っているはずなのだけれど・・・。 フランの気持ちはお構いなしに、自分より背の高い草を払い除けながら道なき道を進むジョー。 目に映るモノ、出逢うモノ一つずつに感動し、そのモノすべてが新鮮だった。 除けた葉から溜まっていた雫が大きな雨粒みたいにジョーの頭を濡らしたり、 色採り取りの鳥たちの歌声に聴き入り立ち止まってみたり、 ジョーの姿に一目で恋に落ちてしまう種族の違う野花の精たちが声を掛けてくる度、 「ごめんね、僕は旅をしてるんだ」 と照れながら断ったりと、たくさんの春の仲間たちに出逢った。 しばらく歩くとジョーの足下から何やら生き物の気配。 カサカサ・・・カサカサ・・・。 「誰だい?そこにいるのは?」 「う・・ううう・・・・」 怪我を負った青蛇が今にも途絶えそうな息でジョーの足にしがみついてきた。 「た・・・すけてくれ・・・」 「どうしたんだい!?」 傷ついた青蛇を抱き上げ、辺りを見渡すジョー、追っ手は居ないらしいが・・・。 「すまないが、水を・・・」苦しげに物言う青蛇。 「分かった、すぐに持ってくる」 安全な場所に青蛇を横たえ、そして自分より背の高い葉に溜まっている雫を見つけた。 が、ジョーは風に運ばれなければあんな高い場所まで上ってゆけない。 「他に水は・・・」それらしい物は見当たらない。焦るジョー。 と、そこへミツバチのジェットが現れた。 「おぅ、ジョー。こんなところでまた冒険か?」 「あ、ジェット!頼みがあるんだ。そこの葉にある水をくれ!頼む早く!」 「水?これで良いのか?」と水の溜まっている葉の側へ飛び、 葉の根本を折ってジョーの元へ舞い降りた。 「どうしたんだジョー、そんなに慌てて」 ジョーの目を追うと、そこには苦しそうな青蛇が横たわっている。 「グレート!!」ジェットは青蛇のグレートに歩み寄った。 「どうしたんだその傷!?何があった!?」 「君たちは知り合いなのか・・・」 ジョーはジェットから受け取った葉の器をそっと青蛇の口元に持っていき、命の水を飲ませた。 流れ込む雫が青蛇のグレートの命を辛うじて取り留めた。 苦しげではあるが先ほどよりも僅かに顔色が戻って来たようだ(青蛇だが)。 ジョーは草花の精だけあって、傷を治すための薬草をよく知っていた。 ミツバチのジェットに薬草の説明をし、それを摘んできてもらって薬を作った。 その手際の良さにジェットは感心している。 「ちょっと痛いけど我慢して、青蛇の・・・」 「グレートだ」ジェットが空かさず言う。 「大丈夫だ」薬を擦り込まれ痛みにしかめ顔をするグレートだが、 ジョーの作ってくれた薬はグレートの傷を癒してたのは確かだった。 「あぁ、ありがとよ」 「僕は雄花の精ジョー。何があったのか聞かせてくれないか?青蛇の・・・」 「グレートだ」空かさずジェット。 傷の状態から普通じゃないと察したジョーとジェットがグレートの言葉に聞き入った。 「この森は平和だった。ついこの間まではな。春がくるまでは、と言った方がいいな。 我が輩が目を覚ました時にはもう・・・。 あいつが現れたんだ。森を仲間たちを次々襲っている」 「あいつ!?」二人が声を同時に上げ、顔を見合わせた。 「まさか・・・」ジェットの顔が引きつった。 「・・・って誰?」 緊張を途切れさす突っ込みようのないジョーの表情に、 青蛇のグレートは言葉を失い、ミツバチのジェットは苦笑い。 この森に足を踏み入れるのは初めてで、何も知らないジョーには仕方のないこと。 グレートはジョーに経緯を説明仕始めた。 「この森の西側にはな、樹齢500年と言う大木がある。 その木には不思議な力を持つ果実がなるんだが、数年に一度だけ花を咲かせ果実をつける。 実際その果実を口にする者は居なかった。 この森の守り神である大木の果実を口にするなんたぁー、おそれおおくてな」 ジェットが言葉を挟む。 「その大木の花の蜜は俺の好物だから良く知っている。 果実の方はまだ見たこともねーんだけどな、不思議な力の噂は聞いてるぜ。 で、そこでグレートと出会ったんだ」 グレートは話の続きを始めた。 「でな、その果実を狙って、余所者が集まるのだ。 あいつというのは、数年前我が輩たちが森から追い出したでかいイノシシさ」 話に聞き入っていたジョーが口を開いた。 「そうか、大体の話は分かったよ。で、不思議な力ってどんな力なんだい?」 「分からん・・・」 そこまで話し、疲れたのかグレートはそのまま倒れ込んだ。 |
<< Back Next >> |