----------- 『出逢い編−17−』 ---------- 「よいか!!草の根一本残さず焼き払え!! 虫けら共を皆殺しにするのだ!!」 いよいよスカールは一気にこの地を滅ぼしに掛かっていた。 元々彼の目的とは、聖域という聖域を全て制覇し、そのトップに躍り出る事であった。 妃を招き、自らの子孫を残して永遠に続く王国を築き上げる事。 それは地球の死に程近い目論見。 緑の栄えぬ枯れた大地に、厚雲に覆われた霞んだ空。 生命の誕生できぬ、寂れた星。 スカール自信も生きては行けぬだろう星。 何れ自らも土に帰る時が訪れる、その前に全てを自らの手で奪い尽くしたい。 たったそれだけのエゴの為に、一つの星を消し去ろうとしていた。 「焼け!!焼き払え!!」 彼方此方から炎が燃えたぎり、その炎に飲み込まれる者さえ続出した。 大地に青色の絨毯を敷き詰めていたクローバーも、美しい花々の咲き乱れていた 泉の森も全て炎で覆い尽くされ、真っ黒な煙が幾つも立ち上っては、 今までに見た事もない黒雲で埋め尽くされた空が出来上がった。 鳥達の悲鳴と、逃げ惑う小動物達。 それは泉の森を越えてジョー達の居るミツバチの城にも押し寄せてきていた。 「女王、大変です!スカールが野山を焼き払いに出ました」 「そうですか・・・」 彼らミツバチは煙に弱い。煙に巻かれれば、動く事すら出来ない。 そこに炎が寄せてしまえば、一瞬にして死の都となる。 それは避けたい・・・どうしても・・・。 「女王、あなたはわたし達の母です!どうか安全な場所へ!」 「無意味よ。何処に隠れていても同じ事。ここで死んでも変わらないわ」 「ですがっ!!」 動揺で声の上擦る働き蜂に対して、落ち着き払った女王蜂の姿勢に、 誰もがその心を穏やかにさせられた。 「彼らはどうしています?」 「は、はい。意識は回復させているようですが、何とも・・・その・・・」 「ふふふ。邪魔は出来ませんね」 「は、はあ・・・」 二人の様子が手に取るように感じられる女王蜂は、 こんな事態に置いても、微笑みは絶やさなかった。 「ジェットを呼びなさい」 「はっ。畏まりました」 「ジェット・・・いよいよわたし達の最期の時が来てしまったようだわ。 あなたにはもっと長く生きていて欲しい・・・そう・・・願っています」 そんな意味有りげな独り言を呟いて、ゆっくりと目を閉じた。 一方、花の精の二人は―――。 「フラン、僕は行かなくちゃ」 「ジョー?わたしはどうしたらいい?」 止める事も行かせる事も、どちらに対しても不安で仕方のないフランは、 縋るような瞳で、ジョーに問う。 「君は・・・」 「・・・・・」 黙ったままジョーの顔を覗き込んでいるフランの唇に、軽く触れたジョーは優しく言葉を続けた。 「僕の姿を見守っていて欲しい・・・。あの山の梺から・・・」 そう言って指さしたのは、ここから数百q離れたこの地で一番背の高い山。 そこなら炎の手からは逃れる事が出きる。イワンに頼めば、フラン一人を運ぶなど容易い事。 ジョーは愛しい妖精を守りたかった。が、自らの力では守りきる自信もなかった。 責めて自分の分も生きていて欲しい・・・それだけが願いだった。 「な・・・何を言っているの・・・ジョー!? それでわたしが、このわたしが納得するとでも思って!?」 「フラン!!!!!」 フランは咄嗟にジョーの横になっているベッド脇から、立て掛けてあった硝子の剣を抜き取った。 そして、それをほっそりとした首元に持って行き、震える両手で剣を支えていた。 「そんな事したら・・・わたし・・・わたしっ・・・・」 「やっ、止めるんだフラン!!」 「嫌よ!ジョーと離れるなんて!! ここに居る時だって・・・ずっと、ずっとジョーの事を考えていたわ!! 苦しくて、苦しくて仕方なかったのに。 心配で、寂しくて、逢いたくて・・・・・」 フランの瞳から涙が海を逆さにしたように溢れて、涙でびしょ濡れになった。 「これ以上離れていたら、わたし、死んじゃう!! いっその事、ここで!!」 痛みで軋む体にむち打って飛び出したジョーは、 緊張で強張ったフランの手に握られていた剣を奪い返すと力一杯抱き締めた。 「ごめん、フラン・・・ごめん。僕だって同じだよ。 君と離れるなんて、考えられない。 ただ、君には生きていて居て欲しかったんだ。 ごめんよ・・・側に・・居て・・欲しい。僕が必ず君を守るから・・・」 「うっううっっうう・・・・・・・」 二人の涙声は、彼らの部屋の外まで響いていた。 その声に立ち止まり、ミツバチ達も瞳を潤ませた。 「女王、お呼びですか?」 「ジェット・・・」 「はい」 「わたしはあなたに話して置かなければならない事が一つあるの。 もう・・・気付いてるかしら?」 「女王・・・俺は何があってもあなたの護衛です。 俺はあなたが母でなくとも、一向に構わない。 俺には勿体ない生涯を送れたと、感謝しています」 「ジェット。生きなさい。生きて、この地を再び蘇らせて頂戴。それがわたしの最後の命令です」 「女王!?」 「お行きなさい!!」 「女王っ!!!!!」 ジェットは両腕を仲間のミツバチ達に固められて、外へ連れ出された。 「お前等、何考えてんだ!?離せって」 そして真っ暗な部屋へと放り込まれた。 「おいっ、こら!!俺をここから出せ!何のつもりだ」 「済まないジェット。俺達はいつまでも仲間だ。今まで楽しかったぜ」 「何を言ってるんだ!待てよ!」 ・・・・・・。 「一体、何だって言うんだ・・・。 俺をここから出せーーーーーーーーー!!!!!!!」 ジェットの声は誰にも届く事はなかった。 ――コノママデハ 森ハ 消エテシマウ・・・。 ――僕ラノ 聖地ガ・・・消エル・・・。 風の妖精イワンは、雨を降らせようと、小さな体で大きく風を吹かせて雨雲を呼び寄せている。 「僕ノ チカラヲ スベテ天ニ 捧ゲルヨ。 ダカラ ダカラ ダカラ・・・ミンナヲ 大地ヲ 救ッテオクレヨ」 皆、自らの命を懸けて聖地を守りたかった。 人の踏み込む事の無いこの美しい大地を、青く何処までも続く空を、 穏やかな風の流れる風景を、命の源、輝く泉を、 笑い声の絶えない温もりのある僕らの都。 ――― 神が居るのならば、どうかこの願いを ――― |
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