----------- 『出逢い編−16−』 ---------- 太陽が昇り切った日差しの中で光を浴び、ちらちらと輝く剣がぶつかり合っては離れ、 離れてはぶつかり合って、刻々と二人の体力を奪っていった。 闇が訪れても決着は付かず、動きの小さくなったジョーの足が一瞬・・・止った。 「危ないっっっ!ジョー!!」 スカールの剣がジョーの鼻先で空を切った。 ジェットがジョーをすくい上げて、空へと舞う。 「焦るなジョー。無理だ。引き上げよう」 「嫌だ!アイツを倒す!僕がアイツを!!」 「冷静になれジョー!お前らしくないぞ。今立ち向かったとして、お前は勝てない。 俺が行かなければ、お前はあの瞬間にこの世に存在しなかったぜ」 「く・・・・・・」 「今は休もう。それだけだ」 項垂れたジョーはジェットに抱えられたままフランの待つミツバチ城へ向かった。 ひっそりと静まり返った城の前で、夜露を弾きながら青草と戯れるフランの姿があった。 先程傷付いた指先に、薬草の葉を巻き付けて。 小さな羽音にフランが夜空を見上げると、気を失っているようにも見えるジョーを抱える ジェットが向かってきているのに気付いた。 一瞬にして蒼白になり、駆け寄るフラン。 「ジョー!?」 「大丈夫だ。眠ってる」 「一体・・・何が・・・」 「・・・・・・」 「これが・・・戦い・・・なの?」 「そうだ。これが戦いだ、命を懸けた、な」 「・・・・・・」 「取り合えず、ジョーを休ませてやろう」 「・・・・ええ・・・」 ミツバチ救急隊が傷付いたジョーを素早く手当している。 慌ただしく羽音を立てるミツバチ達。それを遠巻きにフランは見守っていた。 「ジェット」 女王蜂がジェットに声を掛けると、ジェットは軽く腰を屈めて言葉を返した。 「女王、帰りました」 「フラン。彼の側に居ておあげなさい。大丈夫、直ぐに気が付くわ」 「はい、ありがとうございます」 蒼い瞳一杯に涙を浮かべるフランの肩を優しく撫で、 水の入った木の葉で作られた器を手渡した。 「彼が気が付いた時に飲ませてあげるといいわ」 「はい・・・」 軽く頭を下げて、横たわっているジョーの元へと足を向けた。 小走りにジョーの元へと駆け寄るフランの後ろ姿を見送った後、女王蜂はクスリと笑った。 「ジェット・・・見事に振られたわね」 「何を言ってるんです、女王。俺はミツバチです」 「ふふ。そうね、あなたも辛いわね」 ジェットは溜息をふうっと吐いて、両手を肩の辺りで広げて、首を竦めた。 声のトーンを下げた女王が言葉を続ける。 「所で、どうなの?スカールとやらの手応えは」 「今のところこちらの不利です」 「そう・・・。このままでは彼に勝ち目は無いようだわね」 「俺が居たところで、アイツに適う戦力にはならないでしょう」 「あら、ジェット。あなたにしては珍しく弱気な言葉ね」 「・・・・・・・」 「それ程までにスカールとやらは、凄まじい力を持っている、と言う事かしら」 「・・・・・・・」 「やはり・・・数で行くしかないようね」 「ダメです!俺達だけで何とかします。彼らを巻き込みたくない」 「しかし、何れはわたし達にも危機は訪れるわ。花園を奪われては生きては行けない」 「でも、女王。そんな事をすれば皆・・・」 「どちらにしても同じ事。わたし達は手助けをするだけの事よ」 「・・・・・・・」 「何もしないで消えて行くなんて、考えられないでしょ。あなただって」 「それは・・・」 「いい事?彼の傷が癒えたら、この事を公表します。それまでは内密に・・・」 「女王・・・」 「大丈夫よ、わたし達は生き続けるの。解ったわね?あなたももうお休みなさい」 そしてジェットに背を向けて、穏やかな足取りで女王は寝室へと姿を消した。 久し振りの明るい月明かりにジェットは顔を上げ、 一つ煌めいた流れ星を見送って眠りに就いた。 朝露が頬を伝う・・・。 ジョーはひんやりとした頬に手を当て、雫を拭った。 濡れた掌をじっと見つめ、意識がはっきりしてくる頃、何処かで嗅いだ覚えのある甘い香りが鮮明になり 腕に掛かる柔らかな亜麻色の髪に気が付いた。 起き上がろうとしたが全身に痛みが走り、一瞬、苦情の色を浮かべて、 そのまま安らかな眠りの中にいる愛しい妖精の髪をそっと撫でた。 「ん・・・」 とろんとした蒼い瞳にジョーの姿が映り、彼女の頬がぱっと明るくなった。 「ジョー。気が付いたのね」 「うん・・・ごめん。君にこんな顔をさせるなんて・・・」 泉のように潤んで行く瞳が青い硝子玉のように輝き、桃色の頬は硝子ビーズのような涙で鏤められた。 「ごめんなさい。わたしが・・・わたしがジョーをこんな目に遭わせてしまって・・・。 わたしのせいだわ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・ごめ・・・」 その言葉の続きを奪うように唇を塞ぐ。 「君のせいじゃない。もし、君があんな目に遭わなくても、僕はきっと戦っているよ。 これは僕の宿命だね」 そう言って悪戯に笑みを浮かべて、もう一度フランの口元に近付いた。 ジョーは立ち上がろうと、腕を入れ替えて、再びぐっと痛みを感じて体が強張った。 「ダメよ。まだ安静にしていないと。小さな傷でも命取りよ、ね?」 「ありがとう・・・」 「ふふっ。女王様の受け売りだけどね」 細い首をちょこんと傾げて見せるフランは愛らしく、 ジョーは傷を負っていない方の腕でフランをそっと抱き留めた。 「ジョー・・・」 「少しだけ。少しだけこうしていて欲しいんだ」 頬を桃色から林檎のように染めたフランは、傷を負ったジョーの肩を癒すように触れて、 それを守るように背中に腕を回した。 「ご覧・・・夜が明けるよ・・・」 ゆっくりと地形を顕わにする光の美しさに魅せられた二人は、 地平線から昇る光に包まれて、安らぎの一時に肩を寄せ合った。 |
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