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+++ ある春の物語---第二章 +++

----------- 『出逢い編−15−』 ----------


震えながら剣を向ける見張りの者。
「大丈夫だよ、彼は僕の・・・」
「俺は見たんだ!そいつは、あの夜の赤い影だ!俺達の仲間を殺したんだ!」
「おい待てよ、落ち着けって、お前」
「ちっ・・・、近寄るな!」
「待ってくれよ、彼は僕の友人なんだ」
「新入り・・・お前も仲間か?」
「ちょっと!!違うってば、落ち着いて話を・・・」
「ジョー、お前が生ぬるい事をやってるからンな事に・・・」
剣を向ける見張りの者に襲いかからんばかりに飛び立とうするジェットに、
ジョーは大きく叫んだ。
「ジェット!!彼だって犠牲者だ!」
「解ってるよ」
「うわああああああああああああああ!!!」
見張りの者の叫ぶ声に、スカールの手下が集まり始めた。
――が、そこにはもう誰も居なかった。

ガクガクガクガクガク・・・・。
「大丈夫だよ。落ち着いて」
「お前達・・・何者なんだ・・・?」
「僕らは味方だよ。スカールを倒しに来た。いいかい、君だって自由になりたいだろ?
 前のような美しい大地や澄み切った青空が恋しいだろ?
 僕らはスカールから全てを取り戻しに来たんだ」
「む、無理だ。あんな恐ろしい力を持ってるスカールを倒すなんて事、出来っこない」
「君にも協力して貰いたい・・・ダメかい?」
「ジョー、無茶言うな。こんな使えそうにない奴に、そんな事を言ったって・・・」
「赤髪のミツバチ。お前は俺達の仲間を・・・」
「そうさ、俺はお前達の仲間を殺した。だが、それは俺達ミツバチの生きる術だ。
 美しい花園が俺達の命の源さ。その為には力ずくでも奪い返さなければならないからな」
「ジェット、今はダメだよ。彼は君を恐れている。僕が・・・」
「だからお前は甘ちゃんだって言うんだよ!一刻も早くスカールを倒さないと春が終わっちまう。
 そうなれば、来年の春もこのままだぜ?それでいいのか!」
「いや、今年の春が終わる前には・・・必ずスカールを倒す」
ジョーの静かな深い瞳の色を見て、ジェットは肩を竦めて要約口を閉じた。

「どうかな?協力してくれるかな?」
「・・・・・・。で、俺は何をすればいい?」
「ありがとう。そうだね、いつもと変わらず普通に行動してくれさえすれば、
 それで良いんだ。僕はまだスカールに正体がばれていない。
 でも、いつでも戦える準備が必要なんだ。だから、スカールの油断した隙を狙いたい。
 昨日みたいに、僕をフォローしてくれればそれで良いんだ」
「わ・・解った。やってみる」
「うん、頼んだよ」
そう言って見張りの者は、立ち上がっていつも通りの勤務を始めた。
「ふん、当てになるか解らねーな。アイツ、ちくるかも知れないぜ」
「そうなったら、そうなったでしょ。君だっていつ飛び出してもおかしくないじゃないか。
 どうせ騒ぎを起こすなら、静かに起こせばいい。でしょ?」
「お前・・・・」
「ん?何だい?」
「いや、何でもない」
ジェットは苦笑いを浮かべて、ジョーの肩を軽く叩いた。
それに応えてジョーも微笑み返す。
――その様子を伺うように木陰からスカールの手下の影がちらついていた。

二人と約束を交わした見張りの者は、いつもと変わらず辺りを警備している。
スカールは勢力を広める為、泉の森へ向かうと言い、見張りの者は目の前を通過するのを敬礼して見送ると、
先程の影の持ち主が、スカールの前へとしゃしゃり出て行くのが視界に入った。
「スカール様、申し上げます!」
身を屈めて畏まったスカールの手下は、ちらりと二人と関係のある見張りの者に横目で視線を向けた。
「ん?なんだ」
「はっ。フラン嬢の逃亡の件、わたしく目が突き止めました」
その様子に目を見開いて顔が青ざめて行く見張りの者。
「お・・・俺は関係ないっっ!!」
そう叫んで、スカールに背を向けて走り出したかと思うと、
稲妻のように瞬発的にスカールは腰の剣を振り抜いた。
カシーーーーン☆

間一髪。
ジョーが硝子の剣を抜く方が僅かに早かった。
「お前は・・・この間の・・・」
キッと顔を上げると、ジョーは腰を抜かして座り込んだ見張りの者へ逃げるように促した。
「お前も・・・ただの花の精だ。この俺に勝てると思っているのか」
「勝てるかなんて、解らない。でも、ただ殺られるだけじゃない。殺られるならお前も道連れだ!」
「こしゃくなガキめ。そんな玩具で俺を倒そうって言うのか。戯けが!」
再び大きく剣を振りかぶると、ジョー目掛けて突き立てた。
ひらりと身を交わして、軽やかに翻すその動きに、スカールは冷たい笑みを浮かべた。
「少しは手応えがありそうだな」
一瞬にその場は戦場と化した。
そこへジェットが応戦。
「ジョー、やるか」
「いや・・・ここは僕が」
「何人居ても同じ事だ。どうせお前達は最期を迎えるだけだ」
「くそ・・・」
ジョーは素早い動きで相手を錯乱させ、徐々にその距離を縮めて行く。
「チョロチョロと小賢しい」
と、その時ジョーの硝子の剣がスカールの腕を裁った。
先に痛手を負ったのはスカール。
「このガキ、生かしておく物か・・・うがあああああ!!!」

シャキーーーーーン☆
ジョーの肩が斬られた。
胸元の四つ葉のクローバーがはらりと散り、じっとりと赤い血が滲み始めた。
「う・・・」
「ふ。掠ったか。だが、次は痛みも感じなくなるぞ」
ジョーは迫り来るスカールから目を逸らさず、その場に立ち止まったまま目を凝らしている。
その様子に目を覆う雌花の精達、祈りを捧げて手を組む者、全ての者達が固唾を飲んだ。
スカールは動きが大きい。身体の小さなジョーの方が動きに関しては上手である。
力だけでは適わないだろうが、細やかな動きで力を出し切らせまいと、動き回る。
だが、その分ジョーの疲労は大きい。そうそう時間を掛けられない。
隙を狙って一気に詰め寄る、その時を待っている。
剣と剣がぶつかり合う、金斬り音が響き渡る平原。
どちらかが命を落とすであろう。

「いたっっっ」
「どうしました?フラン」
「あ、いえ・・ちょっと手を・・・」
「あら、いけないわ。誰かフランを手当してあげて」
「大丈夫です、女王様。このくらい何ともありません」
「ダメよ。小さな傷でも命取りよ。わたし達の様な小さな生き物には、ね?」
「そうですね・・・ありがとうございます」
女王の優しい微笑みがフランを和ませる。
けれどその胸は、何故か良くない予感を感じさせていた。





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