----------- 『出逢い編−14−』 ---------- 広い広い平原を何処までも歩き、要約小高い丘が見えてきた。 スカールとの対面まであと僅か・・・。ジョーは拳を握りしめ、瞳の輝きを一層険しくする。 「良いか新入り、スカール様の前ではお前は何も口を開くなよ」 「分かった」 思わずスカールへの本音をぶちまけてしまった見張りの者は、ジョーがその事を漏らすのではと言う、 不安があったせいで、ジョーが口を開くことは強く止められた。 まぁ、ジョーにはその方が好都合なのだが。 スカールと言葉を交わす事など、冷静で居られるかどうか、少々不安を感じているのだから。 小高い丘を登りきると、そこには苛立ちを抑えきれずに黒いマントを翻しながら、 行ったり来たりしている大きな影があった。 ――― あれが、スカール・・・。 スカールのお付きの者が見張りの者とジョーを通し、スカールの前まで案内した。 二人はスカールの前で跪き、畏まると見張りの者が報告する。 「スカール様、ご報告に上がりました。泉の森の入口には今のところ何の異常もありません」 「そうか。ん?そっちの者、見ぬ顔だな・・・」 はっとしてジョーは顔を伏せた。 ジョーをフォローするべく見張りの者が即座に答える。 「はっはい、スカール様。この者は新入りで、わたくしがしっかりと教育致しますので、 以後お見知り置きを・・・」 「フン、どうでも良いがな。まぁいい。下がれ」 「「失礼します」」 ジョーは顔を上げることもなく、俯いたままその場を後にした。 「フー・・・冷や冷やしたぜ」 見張りの者は冷や汗を拭うように、湿った額に手を当てている。 「・・・・・」 「どうした新入り。初めて見たスカール様にびびったか?」 「いや・・・」 「ん?何だ?」 「何故みんな、彼に従うんだい?」 「そりゃ〜、お前、力の差がありすぎるだろ。 逆らうなんて事、馬鹿を見るだけだ。命だって幾つ有ったって足りねーぞ」 「・・・・・」 「なに考えてんだお前・・・。まさか・・・」 「・・・・・」 黙ったままの真剣な眼差しのジョーは、凍り付きそうな空気から一転して、 冗談だと言わんばかりに屈託のない笑みをこぼした。 「まさか!」 「そ、そうだよな(冷汗) お前みたいな優男がそんな事出来るわけがない!ははは・・・」 「でしょ?(笑)」 ジョーの乾いた笑い声には、ここにいる誰もが気付かない、奥に秘めた思いがあった。 ―― 必ず ―― 必ず スカールを倒してみせる ―― ―― 必ず ―― 青い空と 大地を取り戻すんだ ―― 「っち・・・生ぬるいな・・・」 空から様子を伺っていたジェットは軽く舌打ちをして、ジョーの行動を見守っている。 そして腕を組んで・・・ぽつりと漏らした。 「んな事やってたら、いつまでもアイツを倒せないぜ・・・。 ったくジョーの奴は何を考えてんだ」 徐に眩しく輝く太陽に手をかざし目を細めた・・・。 「・・・全くわからねぇ奴だな」 ジョーは考えていた・・・まずはスカールの腕を確かめなくては――と。 闇雲に足を突っ込んだ所で、自分の腕がどの位かさえも分からずじまい。 ましてや、経験値のあるスカール相手に何処まで戦えるのかなど、未知に等しい。 どうするものか・・・。 ゆっくりと、その日もまた濃紺の闇が訪れる。 数も少なくなったように見える濁った空から淡く差し込む星明かりを頼りに、 大地の冷たくなった乾いた土を握りしめた。 しっとりとして粘りのあった暖かい土だったであろうその土は、 今はただ、なすがままにジョーの掌を零れ落ち、今だけ穏やかに感じられる涼やかな風が 流れる砂を抱き、そして優しく撫でた。 「風・・・」 ジョーが感じたその風は、ジョーの声を聞いて小さく笑い声を立てた。 「ジョーニハ スグニ ミツカッチャウネ」 「イワンは直ぐ分かるよ。君は独特の流れを持っているからね」 「ソウカナ・・・」 「うん」 ジョーの緊迫した顔つきも穏やかになり、いつもの柔らかい笑顔が戻った。 「トウトウ ノリコンダ ミタイダネ」 「うん。でも、アイツの力が分からないよ。僕にアイツを倒せるのか・・・」 「ダイジョウブ。キミナラ デキル。イヤ、キミニシカ デキナインダヨ」 「・・・イワンは・・・僕の何を知ってるんだい?その自信はどっから来るのか不思議だよ」 姿の見えない相手に首を傾げて横目でくすりと笑顔を見せると、 再び、瞳の奥が熱く燃え立って行くのを、ジョーもイワンも感じていた。 誰かがアイツを倒さなければ・・・と。 「おい、新入り!何を一人でぶつぶつ言ってんだよ。早く寝ちまえよ。 明日も扱き使われるんだからな!」 「うん、ありがとう。そうだね、そうさせて貰うよ」 小さな星達を見つめながら、「おやすみ」とイワンに告げて、枯れ草のベッドに横になった。 翌朝、眩しい光に目を覚ますと、クローバーの覆うスカールの眠っている場所へ向かった。 「ん?ジョーの奴、動き始めたか?」 ジェットは上空よりジョーの動きを見守る。 が、ジョーは足を止め、腰を屈めて何やら拾い上げた。 それを腕を伸ばして陽に透かせてみせて、ジェットと視線がぶつかった。 「何やってんだ、ジョー。ぐずぐずしてんじゃねーぞ」 「うん、解ってるよ」 ジェットはひらりとジョーの向かいに降り立って、退屈そうに顰めっ面をして見せた。 視線をジョーの指先に向けると、持っていた物は四つ葉のクローバー。 ジェットは、はぁ・・・と肩を落とした。 「お前・・・赤髪のミツバチ・・・」 ジョーとジェットの背後で震える腕で剣を抜き、例の見張りの者が声を上擦らせていた。 「し、新入り・・・そ、そいつから離れろ・・・殺られるぞ」 「え?」 |
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