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+++ ある春の物語---第二章 +++

----------- 『出逢い編−12−』 ----------


案の定、スカールは怒り狂っていた。又しても、フランにしてやられただけに、その怒りはただならぬ物である。
「貴様等、あんな小娘一人に何をしているのだ!!」
「はっ」
スカールの前に跪くのが精一杯である野花の精の男共。
「申し訳有りません、スカール様。
 ですが、あれだけ太く頑丈な蔓の独房を、フラン如きの女の身では破ることは出来ぬと思われます。
 ましてや、見張りの者があのような形で発見されるとは、仲間の・・・いえ、確実に男手があると・・・」
「そのような戯言など言っている暇があるならば、さっさと始末してしまえ!この間抜け共が!!」
腰に付けた剣の鞘を大きく振りかぶり、意見を述べた雄花の精を殴り飛ばし、
殴られた雄花の精は、冷たい大地に叩き付けられ気を失うほどの衝撃で倒れた。
「はっ、はい!畏まりましたっ」
「どいつもこいつも・・・。くっ・・・生かしておけぬな・・・」
その場に居た雄花の精達は、硬く拳を握りしめて怒りを奮わすスカールに身震いを感じ、血の気の引くのを感じていた。

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少しやつれたような面持ちのジョーは、時が来るのを静かに待っている。
―――これは、自分の気持ちとの戦いなんだ・・・。
そんな思いで、ジョーは自分の胸元にぐっと手を当てた。
―――もしかしたら命を落とすかも知れない・・・。それでも守りたい者がいる・・・。
―――もし・・・この戦いが終わったら・・・もし、無事で帰って来れたのなら・・・その時は・・・。
そして、すくっと立ち上がり、風に言葉を流した。
「大切なのは君なんだ・・・」と。

うっすらと東の空から藤色の紗をかけながら夜が明ける頃、ミツバチのジェットがジョーの元へと現れた。
「よぉ、相棒。待たせたな」
「ジェット・・・」
フランのことが気になっているのに聞き出せない、もどかしい表情をするジョーに、
ジェットはジョーの頭を軽く小突いて、ジョーに安堵を与えた。
「心配するな、俺の城(女王の城であるのに)に彼女を預けてきた」
「そうか、ありがとう・・・」
「く・・・(微笑) 礼なんて必要無いだろ?」
「え?あ・・・そ、そうだよね、はは・・・」
ジェットから視線を逸らして天を仰ぐジョーの頬はうっすらと朱を差しているが、
昇る陽の手助けで、その様子は確認できないであろう。
だが、ジェットには見透かされていて、ぱちんと背中を叩かれた。

「さて、これからどうする?」
ジェットが本題を切り出し、二人の顔はきりりと引き締まる。
「うん・・・正面から挑んだ所で、適う相手じゃ無さそうだしね。まずは、敵の事を調べないと。
 それに、僕はまだその敵がどんな奴かも知らないんだ。この目で確かめたい・・・」
「そうだな、まずは下調べに行くとするか」
二人の視線は泉の森の出口に向けられた。
そして再び二人の視線が絡み合うと、どちらともなく頷いて、スカールの居る場所へと歩み出した。

無言のまま歩く二人の様子はそれぞれの性格が現れている。
ジョーは厳しい瞳で真っ直ぐ前を向き、腕を振ってずんずん歩いている。
それとは正反対のジェットは、きょろきょろしながら宙を飛び、落ち着かない様子。
若しくはジョーをからかいたいらしい。
蜂:「なぁ、俺が連れていってやろうか?その方が早いだろ」
花:「ん・・・いいよ、自分の足で行くよ」
蜂:「フン。強がりなんだな・・・」
花:「っち、違うよ!僕は自分の足で進むことが好きなんだ!」
蜂:「へぇ〜、冒険家気取りか?」
花:「そんな事無いよ!僕は冒険は好きだけど、それを語る程の経験はないからね」
蜂:「ちっ、真面目な答えを返してくるなよ、面白みがねーな」
浮きながら頭の後ろに腕を組んで呆れた顔のジェットは、
はっと何かを閃き、口元にはいつもの笑みとは少し違う、何かを企んだ笑いが作られた。
そして、徐にその口元は開かれた。
蜂:「お前、女の経験はあるのか?」
花:「なっ!!何言ってるの?こんな時に!!」
真っ赤な顔で無気になって反発するジョーの声に、胸の奥で一層笑いが込み上がる。
案の定、食らいついた、と。
蜂:「こんな時だからこそ、だ」
花:「何でっ!?」
蜂:「もしかしたら最期かも知れねーだろ?」
花:「だっ、だからって・・・何でそんな事聞くのさ!」
蜂:「お前・・・フランが初めてか?」
花:「ちっっっっっがうよっ!!」
蜂:「おっ♪その前に経験有りって事か」
花:「違うってば!」
蜂:「キスもしたこと無いとか?」
花:「それはっ!!!」
その問いにジョーの顔から火が噴きだし、ジェットは勝利の拳を小さく握った。
そして知らん顔で「着いたぞ」と。
しれっとした態度に言葉を失ったジョーだった。
まぁ、ジェットのお陰で緊迫したムードも和んだ事だから良しとしておこうか・・・。



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