<< Back   Next >>

+++ 輝きの欠片−第3話− +++

ジャンを病院まで運び意識が戻るのを待つ間、先ほどジャンが言いかけた言葉を思い出していた。
(なんて言いたかったんだろう・・・)
「ぶらくご・・・?部落語・・・?ブラクゴ・・・」
(ん?ブラック?)
「そうか、ブラックゴーストだ」
(名前だけは聞いたことがある。確か授業に出てきたはずだ。
ええ・・・と・・・そうだ僕らの敵だ。うん!間違いない!)

ジョーたちの魔法学園で魔法人と認められた多くの者たちは、ほとんどが社会に出て活躍している。
それは自分の夢の為であったり、人々の為に役立てていたり様々だ。
フランソワーズは両親を事故で亡くし辛い思いを背負ってきた為、
魔法を使えれば事故を未然に防げたかも知れないと涙し、人々の為に役立てたいと夢見ている。
だが学園の最大の目的は、有力な魔法人を育て上げ、
世界征服を企むブラックゴーストを倒すために造られた物でもある。
それを逆手に、ブラックゴーストは魔法人の力を使い、
強力なエネルギーに変え闇を呼び起こし世界征服を目論んだのだった。

(僕は何のために魔法人になりたかったんだっけ?
あまりにも魔法見習い試験に落ち続けるから忘れてしまったよ)
ジョーの本来の目的は、唯一の親友であった犬のクビクロを蘇らせたかったのだ。
ある事情で自分の手で殺めなくてはいけなくなってしまった、親友。
そのことにかなりショックを受けていたのだ。
”忘れた”なんて嘘に決まっている。その言い訳はどうしようもない気持ちの表れであろう。

さて、ジャンの意識が戻るのを待ちきれなかったジョーは、
ブラックゴーストの基地が何処かこの近くにだろうと思い、怪しいと思う建物はすべて調べ回った。
思い当たる場所もすべて・・・。
「これ以上、何処を探せばいいんだろう・・・」
こうしている数日間は時間が経つのがとても早く感じられた。
気が付けば、探し始めてから6日目の夜が訪れていた。

何の手掛かりもなく部屋へ戻ると、徐にベッドに横たわった。
この間は試験結果でなかなか眠れなかったが、
この数日間はフランソワーズの事が心配でほとんど眠ることが出来なかった。
このまま何の手掛かりもなく走り回ったところで、体力も続かない。
今は休むしかないことを自分でも分かってるつもりだ。
かといって、すんなり眠れるはずもない。
例え見付け出したとしても、その時の自分に何が出来るのだろう、
そう思うと更に不安が襲ってくる。
真っ暗な天井を見上げると、フランソワーズの笑顔が浮かんできた。
「あの時、無理にでも側にいればよかったな」
別れ際の事を思い出していた。
「いや、今の僕が居たって何の役にも立たなかった。僕のこんな魔力じゃ・・・」
そう言って月明かりに照らされる自分の手を見つめた。

さすがに疲れ切っていたのだろう、ジョーはいつの間にか眠ってしまった。
眠りが浅かったのか、夜が明ける前に目を覚ましゆっくりと起きあがった。
そしてベッドに座ったまま、東側の窓をぼんやりと見つめる。
「外はまだ薄暗いな・・・」
遠くの山から少しずつ日が差してくるのが見えた。
だんだんと大きくなってゆく光に目を細めるジョーを、ゆっくりと包んでゆく。
まるで何かを訴えているかのように。
「希望の光・・・」
そう呟いて、焼いていないパンをくわえて表に飛び出した。
「取り合えず学園だ」



朝一番の学園、もちろん生徒も教師すら誰一人居ない。
門をよじ登って、進入。
「僕は怪しい者じゃないよー。ここの生徒なんだから」
そんな独り言を言いながら、学園の隅々をまるで犬のように嗅ぎ回った。
ふと、試験場入り口に張り出されている合格者名簿に目が止まった。
名前を辿って行き、フランソワーズの名前を見つける。
「とうとう魔法人か、さすがだな。この結果を早く教えてあげなくちゃ・・・」
更に気持ちを急かしたてた。
そして自分が受けた魔法見習い試験の試験場に立ち寄る。
あるはずも無いと分かっていたけれど、これを怖い物見たさというのか。
”ジョー・シマムラ”
「僕の名前だ・・・」
目を疑う・・・がしかし確かにそこには自分の名が記載されていた。
ちょっとだけ気持ちが楽になったような気がした。
この場にフランソワーズが居れば、まるで自分のことのように喜んでいるだろうと、
その光景が目に浮かぶ。
穏やかだったジョーの目がきつくなる。拳を堅く握って・・・。
そして学園で誰も入ることの許されない部屋が一つあることを思い出した。
「園長室・・・」
再び走り出した。



<< Back   Next >>
<< Menu >>