アリスの思い出話に聞き入っていたジョーは、懐かしさの余り、顔が綻んでいた。 だが、アリスを傷付けてしまった事への詫びは何一つしてやる事が出来ずに、 別れてしまった事を悔やんでいた。 「そうだ・・・そうだったね・・・。ごめんよ‘カナコちゃん’・・」 「思い出した?でも、もういいの、済んでしまった事だもの」 「その・・僕はどうしたらいいのかな?今頃じゃ、間に合わないかも知れないけれど、 君に何かしてあげられないかな?」 「そうねぇ〜・・出来ない事もないわ」 「何・・言ってみて。僕で出来ることなら」 「じゃ、今日一日あたしを恋人にして!」 「えっ!?」 「さ!行きましょ!デートよデート♪」 「ちょっ、ちょっと待ってよぉ〜アリスぅ」 二人の姿を浜辺に見たフランソワーズは、青覚めた顔で言葉無く見つめていた。 二人を行かせてはいけない・・・分かっていても動けない。 だって・・・わたしには、ジョーを取り留めておく術は、何も無いから・・・。 頬を伝い一筋の涙がこぼれ落ちた。 落ちた涙は真珠のように煌めき、大地へと消えて行く。 落ちる涙を見送ったフランソワーズは、傷めた胸を押さえながら呟いた。 「このまま消えてしまいたい・・・」 「ねぇジョー。遊園地へ行きたい」 「えぇぇぇえ!?遊園地ぃ〜?」 ― 「こっちこっちメリーゴーランドに乗りましょ♪」 ― 「あんまりはしゃぎすぎると転ぶよ!」 ― 「子供じゃ無いんだから、平気よっ」 ― 「次はお決まりのティーカップね♪」 ― 「廻し過ぎると、酔っちゃうよ?(笑)」 ― 「大丈夫大丈夫!!ジョーこそ目を回さないで頂戴ね」 ― 「今度はジェットコースターよ!」 ― 「ジョー、怖いんでしょ?口が開いてるわ」 ― 「怖くなんか無いよ!でも、以外と高いんだねぇ〜」 ― 「初めて?遊園地」 ― 「そうだね、昔一度だけ来た事あった気がするけど、忘れちゃったよ」 二人は端から見たらまるで付き合いだしたばかりの恋人のように映っていたに違いなく、 周りに引けを取らない二人の容姿に、すれ違う人々は振り返っていた。 「ね?みた?今の?」 「え?何を?」 「今ね、あたし達の事、見取れてたわよ。あのカップル」 「えぇっ!?」 「もう!何でそんなに驚くの?今日は恋人同士でしょ?それともフランソワーズに悪いって思ってるわけ?」 「いや・・そんなんじゃないけど・・さ・・」 「ふんっ!ジョーったら!」 「あ・・・ちょっとアリスってば・・待ってよ」 「あ!あれに乗りましょ!」 「ちょちょっ、アリス〜」 「ジョー!!早く早く〜」 アリスの笑顔は太陽に負けないくらい輝いて見える。 そしてジョーはふと思う。自分はこの笑顔を曇らせていけないのかな、と。 少し間違った選択かも知れないが、彼女の心の傷を癒してやらなければならないのかと、 フランソワーズを思う気持ちと入り交じり、悩んでいた。 フランソワーズは僕等の過去を知っている。だからあんなに心を乱されて・・・。 僕は・・どうすれば・・・いい? 「わ〜、見てみて、この観覧車高いわねぇ〜、人があんなにちっちゃく見える」 「本当だ。観覧車なんて初めて乗ったかも知れないな」 「えーじゃあ、あたしが初めてなのね!嬉しいっ」 「そう言うことになるね」 人懐っこく腕に絡み、素直に喜ぶアリスの表情は子猫のように愛らしい。 フランソワーズだったら、どんな風に喜ぶだろう?そんな思いが脳裏を過ぎる・・・。 「今、何考えてて?」 「え・・何にもだよ・・・はは・・。ほら、あれ見てご覧よ。次はあれに乗ろうか?」 「ええ。いいわよ」 間もなく頂上に到達する寸前、無口になるアリス。 「どうしたの?」 「ううん、どうもしないわ」 アリスの瞳が何かを捉えていた。あたしを迎えに来ている・・・。 もう少し待ってよ・・・もう少しだけあたしに時間を頂戴。 遠くに遊園地にそぐわないような黒服の二人組が、観覧車を見上げていたのだ。 ジョーはまだ気付いていない・・・。 「ジョー知ってる?」 「ん?何を?」 「観覧車が頂上に到達する時、口付けをした恋人達は永遠(とわ)に結ばれるんですって」 「へぇ〜・・・そうなんだ」 心から感心するジョーは、何の疑いもなく頷いていた。 「だから・・・お願い・・・」 「え?・・・・えっっ?えええっっっ!?!?!」 そっと目を閉じるアリスが目の前にいる。 ど・・どうするんだよ、この状況!!鼓動が早くなる。 「早くぅ〜・・・あたし達は恋人でしょ!今日一日だけだけど」 「え・・あ・・・うん・・・」 しどろもどろになるジョーの姿に、涙目になるアリス。 まぁ、彼女のそれは、ほぼ演技に近いのだが、それをジョーが見抜けるわけもなく、 致し方ない、と目を閉じ心で呟いた。 ――― ごめんっ、フランソワーズ ――― |
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