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+++ 永遠のかたち 第10話 +++

ジョーとアリスが口付けをした瞬間は頂上をやや下ったところだった。
「あ〜あ、折角だったのに、永遠の誓いは破れたわね!」
「え・・・あ〜・・・ごめん」
頬を紅潮させたジョーは目を四方八方に飛ばしていた。
「ふふっ、そう言うところも大好きだけどね」
「・・・ありがと・・う」
この言葉がこの場に相応しいか何て、もう、どうでも良かった。
早くこの場を立ち去りたい・・・そんな思いで地上を見つめていた。

降り場に着くと、先にジョーが降り、手を差し伸べアリスを招く。
「よいしょっと。ありがとう」
「どういたしまして」
微笑むアリスは本当に楽しそうで、幸せそうな表情をしていた。
僕は・・・やっぱり・・・・・・。
二人の女の子の間で悩むジョー、今までにも同じ様な経験があったのか、無かったのか。
それは彼にしか分からない事だが、
少なくともこの時は二人の間を行ったり来たりしていたに違いなく・・。
はっきりさせなくちゃ・・・な。

「あの・さ・・アリス・・・」
「ねぇ、ほらソフトクリームがおいしそう!!」
「えっと・・じゃあ、僕が買ってくるから、ここで待っていて」
噴水を囲むベンチでアリスを待たせたジョーは、足早にソフトクリーム屋を目指した。
「参っちゃったな・・あんな事がばれたらまたフランソワーズを泣かす事になっちゃうな」
ポツリと呟きポケットから小銭を取り出し、真っ白なソフトクリームと交換した。

「お待たせ。さあ、次はどれに乗ろうか?」
「ジョー、ありがとう。楽しかった。あたし、こう言うのにずっと憧れてたの。
好きな人とこうして居られたら、すごく幸せ」
「アリス・・・?」
「フランソワーズが羨ましい・・・」
「どうしたの急に」
「あたし、そろそろ行かなくちゃ」
「行くって、何処へ?」
「もう、夏は終わってしまうの。天女の冠・・・」
「あ〜、あの貝殻?・・・何か?」
「あたし、帰らないと・・・」
「アリス!?」
「さよなら!ジョー!!」
「ちょ・・・アリス!!」
両手に持ったソフトクリームが溶けて、ジョーの手に絡みついている。
その事にも気付かず、走り去っていくアリスの後ろ姿を見送った。
教会で、別れたあの時と同じように、為す術もなく・・・。

―――夕陽に包まれる研究所の梺の浜辺。
フランソワーズは一人、波打ち際に佇んでいた。
背後から自分の名を呼ぶ声がして、ぼんやりしながら振り返った。
「アリスさん・・・」
「ごめんなさい。フランソワーズ」
「・・・・・?」
「あたし、あなたの事が羨ましかったの。ほら、見て」
ノースリーブの小花柄のワンピースから、傷が残っているはずの肩をフランソワーズに見せた。
「・・・傷・・・・・?」
「傷なんて残ってないの、本当は」
「・・・・・」
「ジョーって、奥手なのよね、昔っから」
「・・・・・」
「苦労するでしょ?」
「・・・・・」
「ふふふ、あたしが言うなって思ってる?」
「そんな・・・ただ、わたしはあなたが羨ましいと思って・・」
「どうして?」
「どうしてって・・その・・・素直に自分の気持ちを伝える事が出来て・・」
「それは違うわ。あなたが素直になれば良い事よ。とても簡単な事」
「でも・・」
「どんなに真っ直ぐでも届かない事もあるの。あなたは知ってる?」
「・・・・・」
「あなたは幸せよ。それに気付かないだけ」
「・・・・・」
「勿体ないわ」
「・・・・・」

「ねぇフランソワーズ。こんな物語は知ってる?」
「え?」
「球体の形の意味」
「聞いた事が無いわ」
「あのね・・・・」
静かな波音とアリスの語る物語とが何とも言えぬ美のハーモニーを描き、
神秘的な情景を思い浮かべるフランソワーズは、半ば夢心地であった。
それを聞き終えると、溜息混じりに呟いた。
「素敵なお話ね」
「でしょ?」
「あたし、球体になりたかったな・・・失敗しちゃったけど」
わざと聞こえるようなアリスの独り言。
「・・・?」
「気にしないで」
「・・????」

「あ、そうだ。今日一日ジョーを借りたの。楽しかったわ」
「見たわ、二人で何処かへ向かうところを。でも、借りたなんて・・わたしはそんな・・・」
ふうっと一息吐き出してしゃがんみ込んだアリスは、浜辺を愛おしそうに寄せる波にじゃれついていた。
「あなた、ダメよ。いつまでも浜辺みたいな女の子じゃ」
「浜辺・・・?」
「ジョーに話したから、聞いてみたら?」
「・・・・?」
「もっと、図々しくならないと、大切な人は守れないわよ?」
「でも・・・わたしは・・」
「呆れた!こんな事なら本当にあたしがジョーの事浚って行っちゃうから!」
「え!?」
「あなた、もっと心(しん)の強い女の子だと思ってたのに、がっかりだわ」
「そ・・・そんな・・・」
「ねぇ?聞くけど、本当にジョーの事好きなの!?じゃなかったら、このままあたし、ジョーを・・」
「すっ、好きよ。誰よりも彼を・・」
「彼を?」
「彼を愛しているもの!誰にも・・誰にも譲れないわ!!」
「そう!そうでなくちゃ、ね?ジョー?」
「え?・・・ジョー?」
二人の様子を遠巻きに見守っていたジョーは、顔を赤らめながら、俯いていた。



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