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+++ 永遠のかたち 第5話 +++

「アリス・・・さん」
「さすが、ジョーね」
「あなた、一体・・・」
「言ったでしょ、あたしはジョーのフィアンセよ」
「・・でもそれは・・・」
「そう、過去の事。
 でも、ジョーが思い出してくれさえすれば、きっとあたし達また一緒にいられる」
「どう言うこと?」
「いい事教えてあげましょうか?」
「・・・・・」
「あたしの目を見て」
「・・・・・・・・」

吸い込まれそうな深い黒色の大きな瞳は、フランソワーズの意識を連れたっていった。
意識を失ったフランソワーズが気が付くと、そこには子供達の笑い声が幾重にも重なって聞こえていた。
「ここは・・・?」
ゆっくり起き上がったフランソワーズの横で、一人の幼い少女が声を掛けてきた。
「おねぇちゃん、だいじょおぶぅ?」
「え、ええ。だいじょう・・・ぶ・・・」
黒色の大きな瞳。円らなその瞳は紛れもなく、アリスの物だ。
しかし、フランソワーズの見覚えのあるアリスは、自分達と同じくらいの年のはず。
では、この女の子は一体・・・!?
「どうしたの?カナコちゃん」
「このおねぇちゃんがね、たおれてたのよ」
口調もアリスその物。
「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」
くりくりとした赤色の瞳、栗色の髪、首の傾げ方、どれをとっても自分の知っている少年を幼くした物だった。
「じょーくん。おねぇちゃん、だいじょおぶみたいよ?いきましょ」
そう言って、手を引かれて教会の奥へと立ち去る幼い少年は振り返ってフランソワーズに手を振った。
さっき、ジョーと別れた時と同じ笑顔。幼くともジョーには変わりはなかった。
「う、うん。じゃ、おねぇちゃん、またね」
「あ、ありがとう・・・またね」
小さく手を振ったフランソワーズは目を疑った。
朽ち果てたはずの教会が、目の前に見事なまでに建ち聳えていたのだ。
「これはどういうことなの?それに・・カナコ・・・?」
そしてまた背後からアリスの声がする。
「ね、見たでしょ?ここで、わたし達は一緒に育ったのよ」

「アリスさん!?」
「本名はカナコよ。でも、今はアリス。アリスでいいわ、フランソワーズ」
「ジョーとあたしはね、ここでいつも一緒に居たの」
「・・・・・」
驚きを隠せないフランソワーズは子供達の笑い声の響き渡る教会に釘付けになっていた。
「あたしの事、ジョーに話す?」
「・・・・?」
「話しでもいいけど、あなたが不利になるわ」
「・・・・??」
「あたしとの事をジョーが思い出せば、必ずジョーはあたしの元へ戻ってくるもの。
 まぁ、その方があたしにも都合がいいんだけど」
「・・・・・・」
フランソワーズは何も言い返すことが出来ず、ただ黙ってアリスの言葉を聞き入るだけしか出来なかった。
こんなに幼い頃から、二人は一緒にいた・・・それなのに、自分は過去から蘇らせられた過去の人間・・・。
いや、サイボーグ。
アリスは自分とジョーを引き離し、ジョーと共に生きたいのだと悟った。
ただ、それ以前に自分とジョーの関係を見つめ直した。

引き離すもなにも、まだわたし達は始まっていない・・・。
一緒にいる事が当たり前で、一緒に居る事が幸せだと思っていた。
何度かキスを交わしただけ。それだけの関係。
わたしがジョーを思っていても、ジョーの気持ちすら解らない。
共に歩みたい・・・けれどもし、もしジョーが他の女性を好きになっても
わたしにはそれを止める権利なんて、何もない・・・。
今にも押し潰されそうな思いを抱き、フランソワーズは微かに震えていた。


「もう一つ、あなたにとっては決定的な打撃になるかも知れないけど、
 あたし体に傷が残ってるの。ジョーに付けられた物よ?」
「え!?」
「見て・・・」

フランソワーズが振り返るとそこは古い洞窟のような場所に変わっていた。
「ここ、見付けたんだ!みんなには内緒だよ。僕らだけの秘密基地!」
「ジョー君、怖い〜まっくらよぉ」
「大丈夫!僕が付いてるよ!」
洞窟の入口には柵が敷かれ‘立ち入り禁止’と記されていた。
だが、幼い彼らがその意味を解るはずもなく、ただ好奇心だけで洞窟の奥へと進んでいった。

「だめ、危ないわ!」
彼女の透視によってその瞳に映った物は、洞窟の奥で崩れかかっている大きな岩だった。
「フランソワーズ!あれは過去よ。もう起こってしまった事なの」
「・・・・・」
固唾を飲んで見守るフランソワーズ。

「ね、すごいでしょ?大きなトンネルなんだ」
「わぁ〜ジョー君すごいね!すごい!あ!あれなんだろね?」
「うん、行ってみよ!」
幼い二人の声は洞窟から響いて、走る足音が木霊していた。

「あ!だめ走っては!ダメよ崩れる!!」
一瞬目を覆ったフランソワーズは体を強張らせた。
ゴゴゴゴ・・・・・・・・。
もの凄い地響きと共に悲鳴が聞こえる。
「キャーーーーーーーー」
「かなこちゃぁ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」

そしてその声が静まり、辺りはまた教会の前へと移り変わった。
「目を開けても大丈夫よ」
恐る恐る覆っていた手を開いて、辺りの様子を伺うフランソワーズ。
「ね?見たでしょ?その時出来た傷がこれ」
白いワンピースの半袖部分から、肩に付いた傷跡をフランソワーズに見せつけた。
「あの事を思い出したら、ジョーは責任を感じて、あたしの元に返ってくるわ」
「どうしてこんな物をわたしに見せるの!?なんでこんなっ!こんな・・・っ」
怒ると言うよりも哀しい瞳で訴えるフランソワーズに、アリスは淡々と答えた。
「あたし、時間がないの。あなたが邪魔なのよ」
「え・・!?・・・」
アリスの冷たい視線がフランソワーズを凍り付かせた。



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