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+++ 永遠のかたち 第3話 +++

――― 好き ―――

たったその一言を言えずに、その言葉の重さに、どれ程フランソワーズが苦しんでいたことか。
それなのにアリスはその言葉を意図も簡単に発してしまう。
羨ましいのと裏腹にフランソワーズの胸がズキズキと傷んでいた。
中途半端に立ち上がったまま動かないフランソワーズを、ジョーがそっと支える。
「大丈夫?気分でも悪い?顔色が優れないよ」
「ありがとう大丈夫よ」
そう言って、うっすらと涙の溢れそうな瞳をジョーから逸らして、背中越しに二人に伝える。
「ちょっと、休ませて貰うわ」
「うん・・・後で冷たいタオルでも持って行くから」
「ありがとうジョー。ごめんなさいねアリスさん。せっかくいらしてくれたのに」
「ええ。気を遣わせてしまってごめんなさい。あたしこれで失礼するわ」
「え・・あ・・・う、うん」
事の真相を知りたいジョーは、複雑な気持ちであったのは言うまでもないだろう。
「また、お邪魔してもいいかしら?」
「あぁ・・構わないよ。別に。ね、フランソワーズ?」
「ええ。いつでもいらして」
「じゃ、また・・・」
「またね。ジョー、フランソワーズ」
にっこりと微笑んだアリスは手を振りながら研究所を後にした。

「送って行ってあげなくていいの?」
「あ、うん・・でも、君が・・・」
「わたしなら大丈夫よ。行ってあげて」
「・・・・・じゃ、ちょっと行ってくる。直ぐ戻るから部屋で休んでてね」
「ええ」
フランソワーズの寂しそうな声音を残して、ジョーはアリスの後を追った。

「アリス!?アリス!?」
研究所を出て直ぐに追いつくつもりだったジョーは、姿の見えないアリスを不思議に思った。
「何て不思議な娘なんだろう・・・」
自分の名前を知り、過去も知る相手に偶然に出逢う事などそうそうある事じゃない。
しかも謎めいたその少女は今し方一緒に居たのに、その姿は何処にも見当たらなかった。
「この下の浜辺へ行ったのかな?」
切り立った崖の下を見ても彼女の姿は無く、先程見付けた貝殻と同じ、
テンニョノカンムリが波打ち際に流れ着いていた。

「何処へ行ったんだろう・・・アリスは」

スッキリしない顔をして研究所に戻ったジョーは、直ぐにフランソワーズの部屋へと向かった。
トントン。
「入ってもいいかな?」
「どうぞ」
女の子の部屋はあまり入り慣れていないせいか、ドアを潜った所より先に進めないで居るジョー。
「その辺に適当に掛けて」
「あ、ありがとう・・・」
窓の外はオレンジ色の夕焼けが大きく映っている。水平線の向こうへ眠りに就こうと。
「綺麗な夕焼けだ」
ベッドへ腰掛けていたフランソワーズは背中越しの夕日を振り返る様に見つめて呟いた。
「ホントに綺麗ね・・・」
ジョーは部屋の中央へと置かれた小さなテーブルに添えるように置かれた椅子に腰掛ける。
「アリスさんは?」
「もう、居なかった」
「そう・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
沈黙が続く・・・。

「「あの・・」「あのさ・・」」
「ジョー先にどうぞ」
「いやフランソワーズから」
「「・・・・・・・・・・・」」
「くすっ・・・うふふふ」
「ぷっ。あははっ・・・」
「ごめんよ、フランソワーズ」
「わたしこそ、ごめんなさい」
「君の気持ちは分かってたんだけど、やっぱりその・・・気になっちゃって」
「分かってるって言ったじゃない、わたしだって」
「あ、でも何だか怒ってるのかと思って・・」
「ちょっと・・・・妬けちゃった・・・かな」
夕焼けに照らされた俯き加減のフランソワーズの頬はほんのり色付いていたに違いない。
ほんの少しだけ、少しだけでいいから素直に・・・。
それはアリスから教わった気持ちだった。

「静かだね」
「そうね」
「「・・・・・・・・・・・」」
「博士とイワンはまだ戻らないのかな?」
「あ、さっきジョー達が出ていった後、電話が来てね、今日は遅くなりそうだから戻らないって」
「そ、そうなんだ」
「「・・・・・・・・・・・」」
「しょ、食事どうする?」
「そうね、何か・・・」
「たまには僕が作ろうか?」
「え?ジョーが?大丈夫〜?」
「大丈夫だよ!僕だって張々湖から色々教わったんだから!」
「じゃ〜、お願いしようかな?」
「任せて置いて!」
胸をポンと叩いてキッチンへそそくさと向かうジョー。
二人っきりと言う緊張から解かれる様に早足になっていた。



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