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+++ 悪夢の園 第九話 +++

大岩を前に犬夜叉は渾身の力を込めて鉄砕牙を振りかざした。
「爆流破!!」
封印を解くべく赤く変化した鉄砕牙からの剣圧により、
大きな地響きと共に大岩から眩い光が立ち込めた。
大岩はガラガラと崩れ落ち、爆流破の風圧により、
その欠片があちらこちらへと飛び散る。

「なんだ!?」
咄嗟に娘を気遣い、盾となる犬夜叉。
何者かが浮き出てきているようだ。それは封印を解かれた妖怪か・・・?


「ありゃ、妖怪じゃなさそうだ。邪気を感じねえ」
「あれは・・・父上・・」
「なに!?おめえのおやじだって!?」


「弥生よ・・」
「ち・・父上・・・」


娘は父親だという、その光に包まれた何者かの元へと走り寄っていった。
「弥生、立派な巫女になったな。見違えるようだ」
「はい、父上。あぁ・・父上、会いとうございました・・」
枯れることを知らぬ涙が、娘の瞳からいくつもの筋となり、溢れ出ていた。
「どうやら、あの者が、このわたしに用立てがあるようだな」
そう言うと、顔をあげ犬夜叉を見留めた。
「おう。俺はその奥に行かなきゃならねぇ。力尽くでもな」
そう言うと再び鉄砕牙を構える。
「やめて犬夜叉!!」
娘の声が木霊する。


「ここを通してやらなくもないが、ここはわたしが命を張って築いた結界だ。
邪悪な者を通すわけには行かぬ。お前に闇の心は無いか・・?」
「闇だと!?」
「そうだ。光、即ち善の心、闇、即ち悪の心・・・」
「父上、犬夜叉には闇の心は無いわ!わたしがそれを証明する」

「どうだ?半妖の若造、闇の心は無いか?」
「けっ。善の心だか、悪の心だか知らねぇけど、俺は力尽くでも行くぜ!」
「ふ・・・威勢の良い半妖じゃ・・」
「うーるせえ!半妖半妖言ってんじゃねえ!だったら俺の鉄砕牙を受けてみろ!!」
「やめてえーーーー!!」

犬夜叉は鉄砕牙を振りかぶった。
父の懐にしがみつく弥生、視線をそらさぬ犬夜叉と弥生の父君。
緊迫した空気が凪がれる・・・。
そんな空気を切ったのは弥生の父であった。
「若造よ、お前はこの弥生がいてはわたしを斬れぬのか・・」
「・・っく!」
「良かろう。・・・わたしも人の魂故、所詮そう長くはこの結界は張っておれぬ。
そろそろわたしもこの魂を鎮めたいのじゃ。お前に託しても良いか?この結界を・・・」
「父上・・?」
「弥生よ・・見届けるのだ。この者の戦いを。そしてその光を・・・」
そう言い終えると、再び青白い光を放ち、
その光に包み込まれるように小さく小さく空へと溶け込み、
天高く上り詰めては淡く消えていった。
「父上っ!?」

弥生の父の姿が天と一体になったと同時に、
再び大きな地響きが起こり、封印の札が散り散りに吹き飛んだ。
そして芯をえぐられたかのように、大岩に亀裂が走った。

「来たか!?」
身構えた犬夜叉は弥生を庇うように、大岩の前へと立ちはだかる。
弥生は犬夜叉の背にすがるように火鼠の衣の裾を握りしめ、
事の成り行きを犬夜叉の肩越しより恐る恐る見入っていた。
そして、大岩の上部が完全に崩れ落ちると、巨大な妖怪の姿が現れた。
「グォワァァァァーーーーーーーーーー!!」
「下がれっ」
犬夜叉の声に、娘は後ろへと駆けだした。

「グケケケ・・・最初の獲物は半妖か・・・」
気色の悪い液体を口と思われる部分からダラダラと垂れ流し、
長い手足と鋭い爪とで犬夜叉に襲いかかって来た。
「でかい図体だけあって、動きは遅せーみてえだな」
そう言って、軽く妖怪の腕をすり抜ける。
「グケケ・・逃げるな半妖。どうせ喰われるなら、最初から観念しておくものだケケケ・・」
「っけ。薄気味わりー野郎だな。汚ねえ汁を垂らしてんじゃねー!!」
ざくりと妖怪の腕を切り落とすと、
今度は跳躍を付け、妖怪の頭上へと舞い上がる。
そして鉄砕牙を妖怪めがけて突き立てた。
「覚悟しやがれ!!」

ギャン!鉄砕牙の金属音が鳴り響く中、妖怪は頭をさする。
「痛てえなあ、小僧」
「何!?鉄砕牙が効かねえ」
「この俺様にそんな妖刀じゃあ、太刀打ちできねえな。
グケケ・・そろそろ大人しくしやがれ」
そう言って妖怪は不敵な笑みを浮かべた。


「犬夜叉!!」


娘は犬夜叉に危険を知らせるが、その声はやや遅かった。
切り落とされた腕が、犬夜叉目掛けて飛び込んだ。
「ぐわっ!」
鋭い爪が犬夜叉の背を突き、腹の辺りから真っ赤な血が吹き出した。
「人間の娘か・・・」
ちぎれた腕が徐々に元の腕へと吸い寄せられ、
咄嗟に叫んでしまった娘へと巨大妖怪の赤黒い瞳が向けられた。
「半妖は後回しだ。先に肉の軟らかそうな小娘をひと飲みだ・・ケケケ」
「ば・・かやろ・・・隠れてろっつっただろ・・」
苦し紛れに絞られる犬夜叉の声に、弥生は戸惑う。
「だって・・・」
「いいから・・走れ・・・はやく・・」
「あ・・・」

迫る巨大妖怪。なおも犬夜叉の血は滴り落ちる。
ああ・・・ダメだ・・足がすくんで動けない・・どうしよう・・
「逃げろ!早く!!」




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