大岩を前に犬夜叉は渾身の力を込めて鉄砕牙を振りかざした。 「爆流破!!」 封印を解くべく赤く変化した鉄砕牙からの剣圧により、 大きな地響きと共に大岩から眩い光が立ち込めた。 大岩はガラガラと崩れ落ち、爆流破の風圧により、 その欠片があちらこちらへと飛び散る。 「なんだ!?」 咄嗟に娘を気遣い、盾となる犬夜叉。 何者かが浮き出てきているようだ。それは封印を解かれた妖怪か・・・? 「ありゃ、妖怪じゃなさそうだ。邪気を感じねえ」 「あれは・・・父上・・」 「なに!?おめえのおやじだって!?」 「弥生よ・・」 「ち・・父上・・・」 娘は父親だという、その光に包まれた何者かの元へと走り寄っていった。 「弥生、立派な巫女になったな。見違えるようだ」 「はい、父上。あぁ・・父上、会いとうございました・・」 枯れることを知らぬ涙が、娘の瞳からいくつもの筋となり、溢れ出ていた。 「どうやら、あの者が、このわたしに用立てがあるようだな」 そう言うと、顔をあげ犬夜叉を見留めた。 「おう。俺はその奥に行かなきゃならねぇ。力尽くでもな」 そう言うと再び鉄砕牙を構える。 「やめて犬夜叉!!」 娘の声が木霊する。 「ここを通してやらなくもないが、ここはわたしが命を張って築いた結界だ。 邪悪な者を通すわけには行かぬ。お前に闇の心は無いか・・?」 「闇だと!?」 「そうだ。光、即ち善の心、闇、即ち悪の心・・・」 「父上、犬夜叉には闇の心は無いわ!わたしがそれを証明する」 「どうだ?半妖の若造、闇の心は無いか?」 「けっ。善の心だか、悪の心だか知らねぇけど、俺は力尽くでも行くぜ!」 「ふ・・・威勢の良い半妖じゃ・・」 「うーるせえ!半妖半妖言ってんじゃねえ!だったら俺の鉄砕牙を受けてみろ!!」 「やめてえーーーー!!」 犬夜叉は鉄砕牙を振りかぶった。 父の懐にしがみつく弥生、視線をそらさぬ犬夜叉と弥生の父君。 緊迫した空気が凪がれる・・・。 そんな空気を切ったのは弥生の父であった。 「若造よ、お前はこの弥生がいてはわたしを斬れぬのか・・」 「・・っく!」 「良かろう。・・・わたしも人の魂故、所詮そう長くはこの結界は張っておれぬ。 そろそろわたしもこの魂を鎮めたいのじゃ。お前に託しても良いか?この結界を・・・」 「父上・・?」 「弥生よ・・見届けるのだ。この者の戦いを。そしてその光を・・・」 そう言い終えると、再び青白い光を放ち、 その光に包み込まれるように小さく小さく空へと溶け込み、 天高く上り詰めては淡く消えていった。 「父上っ!?」 弥生の父の姿が天と一体になったと同時に、 再び大きな地響きが起こり、封印の札が散り散りに吹き飛んだ。 そして芯をえぐられたかのように、大岩に亀裂が走った。 「来たか!?」 身構えた犬夜叉は弥生を庇うように、大岩の前へと立ちはだかる。 弥生は犬夜叉の背にすがるように火鼠の衣の裾を握りしめ、 事の成り行きを犬夜叉の肩越しより恐る恐る見入っていた。 そして、大岩の上部が完全に崩れ落ちると、巨大な妖怪の姿が現れた。 「グォワァァァァーーーーーーーーーー!!」 「下がれっ」 犬夜叉の声に、娘は後ろへと駆けだした。 「グケケケ・・・最初の獲物は半妖か・・・」 気色の悪い液体を口と思われる部分からダラダラと垂れ流し、 長い手足と鋭い爪とで犬夜叉に襲いかかって来た。 「でかい図体だけあって、動きは遅せーみてえだな」 そう言って、軽く妖怪の腕をすり抜ける。 「グケケ・・逃げるな半妖。どうせ喰われるなら、最初から観念しておくものだケケケ・・」 「っけ。薄気味わりー野郎だな。汚ねえ汁を垂らしてんじゃねー!!」 ざくりと妖怪の腕を切り落とすと、 今度は跳躍を付け、妖怪の頭上へと舞い上がる。 そして鉄砕牙を妖怪めがけて突き立てた。 「覚悟しやがれ!!」 ギャン!鉄砕牙の金属音が鳴り響く中、妖怪は頭をさする。 「痛てえなあ、小僧」 「何!?鉄砕牙が効かねえ」 「この俺様にそんな妖刀じゃあ、太刀打ちできねえな。 グケケ・・そろそろ大人しくしやがれ」 そう言って妖怪は不敵な笑みを浮かべた。 「犬夜叉!!」 娘は犬夜叉に危険を知らせるが、その声はやや遅かった。 切り落とされた腕が、犬夜叉目掛けて飛び込んだ。 「ぐわっ!」 鋭い爪が犬夜叉の背を突き、腹の辺りから真っ赤な血が吹き出した。 「人間の娘か・・・」 ちぎれた腕が徐々に元の腕へと吸い寄せられ、 咄嗟に叫んでしまった娘へと巨大妖怪の赤黒い瞳が向けられた。 「半妖は後回しだ。先に肉の軟らかそうな小娘をひと飲みだ・・ケケケ」 「ば・・かやろ・・・隠れてろっつっただろ・・」 苦し紛れに絞られる犬夜叉の声に、弥生は戸惑う。 「だって・・・」 「いいから・・走れ・・・はやく・・」 「あ・・・」 迫る巨大妖怪。なおも犬夜叉の血は滴り落ちる。 ああ・・・ダメだ・・足がすくんで動けない・・どうしよう・・ 「逃げろ!早く!!」 ![]() |
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