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+++ 悪夢の園 第七話 +++

光と闇を司る大岩。そこへ行けばかごめを救える。
犬夜叉は居ても立ってもいられず、即座に立ち上がった。
「その場所は何処だ!?」
突然の行動に驚いた娘は、犬夜叉を見上げて訪ねた。
「犬夜叉?どうしたの?」
「俺はどうしてもそこに行かなきゃならねぇんだ」
先程まで、やや警戒心を持った犬夜叉の目が鋭くなり、
何かを訴えかけるその目に、ただ事ならぬ自体なのだと、弥生は悟った。
「解った。でも、今宵は遅い。明日の朝一番で案内するよ」

その夜、犬夜叉は眠ることが出来なかった。
心はかごめの事で埋め尽くされ、脳裏にはかごめの笑顔が浮かんでは消えて行った。
「かごめ・・・待ってろよ・・・」
星空を見つめ、夜明けがくるのを待つ。
こんなにも朝陽が昇るのを待ち遠しく思うことは無かった。
それと同様、こんなにも夜空を見上げたことも無かった。





「あの、一番強い光を放っている星が金星って言ってね、

明け方に見られるから、明けの明星って呼ばれているのよ」



そう言ってかごめが指さした星は、確かに一番光輝いていたのを覚えている。

「っけ。星如きの名前なんて、一々覚えてられっか」

そんなやり取りが懐かしく、朝方に見られると言う、星の名前を思い浮かべた。

そしていつの間にか、犬夜叉は膝を抱えた子供のように眠りに付いていた。





明け方、まだ陽も上がらぬうちに、自分の名を呼ぶ娘の声で目が覚めた。
眠っちまったのか・・・。
「!!!」
ふと顔をあげると、そこにはかごめの姿が・・・・。
「かごめ!無事だったのか!?」
咄嗟に目の前の娘の体を抱きしめた。
「え!?犬・・夜叉!?」
その声にかごめの匂いがしないことも同時に気付く。
きつく抱かれた娘は、頬を赤らめて少し俯き気味に犬夜叉の腕をほどいた。
「びっくり・・・した・・」
犬夜叉も事の自体に驚きを隠せず、くるりと背中を向けると照れくさそうに詫びた。
「すまねえ・・」

「かごめ・・・さま?その人とあの大岩が何か関係あるの?」
娘は肩に残る感触を愛おしげにさすりながら、犬夜叉の背中に目を向けた。
「ああ・・・」
「それは、犬夜叉の愛しい人・・なの?」
更に娘はどことなく寂しげな口調で問い掛けていた。
「・・・・そうかもな」
不器用までに愛を表現出来ぬ犬夜叉のその言葉に、何故か二人の絆の強さを感じた。
弥生は、犬夜叉の前に立ち笑顔で諭した。
「ならば、急ぎましょ」

弥生を背中に負ぶうと、かごめの感触を思い出す。
感じる感触に違和感を持つのは、紛れもなくそれはかごめでは無いからなのだが。
背負われた弥生もまた、犬夜叉の背中に温もりを感じ、
常にこの温もりはかごめと言う娘のものだと言うことに、胸を痛めた。
今だけ・・不謹慎なのかも知れないけれど、今だけはこの温もりは
自分のために用意されたものだと、そう思いたかった。
そして、犬夜叉に気付かれぬよう、そっと頬にもその温もりを感じさせた。

「おめえ、俺の事怖くねーのか?」
「え?」
突然の問い掛けに、娘の鼓動が高まる。自分の行動を見計られたのかと、一瞬どきりとした。
「いや、おやじを殺されたんだろ?妖怪に」
「うん・・・そうだけど。でも、わたしはまだ幼かったし・・あまり覚えていないの」
「そうか」
「でもね、わたしは妖怪も人間も・・どちらも助け合って生きていければと思っているの」
「・・・・・」
犬夜叉はそんな弥生の言葉に、重みを感じた。
共存・・・あり得ないと思っていた。ずっとそう思って生きてきた。
その変化を下したのは、最初は桔梗で・・・。
四魂の玉を使い人間になり、共に生きようと誓った。
またその生まれ変わりというかごめに出会い、更なる変化を感じた。





─────  半妖のままの犬夜叉が・・好き・・・  ─────






かごめ・・・ 心で想う。





「もうすぐよ」

犬夜叉の足を使えば、あっという間に目的の場所へと到着してしまう。
名残惜しそうに、娘は犬夜叉の背からゆるりと降りた。
「これが、光と陰を司る大岩か・・・」
祀りたてられた大岩は、大岩と言うよりも、山の一部と化していて、その巨大さに驚かされた。
犬夜叉は、鉄砕牙を手にすると一気に鞘から抜き放った。

「ちょ・・ちょっと待って!何をするの!?」
「この大岩を叩っ切る」
「だめよ!そんな事をしたらっ・・」
「封印された妖怪が、息を吹き返すだろうな」
弥生は真っ直ぐに大岩を見据える犬夜叉の前に躍り出た。
「やめて!!それだけは・・」
「俺はこの為にここへ来た」
「何故!?わたしを騙したの!?」

まさかこの封印を解く為に来た妖怪だったのか?
わたしは騙されたのか?娘は目の前の犬夜叉に脅えた。

娘の悲痛なまでの叫びに眉を潜め、脅える姿を目の当たりにして、
犬夜叉の心は歪んでいった。
人間なんて、こんなもんだ・・。

「俺は妖怪だ。所詮、共存なんて出来やしねぇ。解ったか?弥生・・」
犬夜叉は自分の言っていることが不自然に思えて仕方がなかったが、
娘の脅える瞳を見ると、何処かで幼少の頃を重ねてしまう。
所詮、異なった生き物・・・交わることはねえんだ・・・。
そんな事を考えながら、脳裏には桔梗の顔と、かごめ言葉とが交差した。



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