一行は消えたかごめを追って、白童子に胸元を捕まれたままのかごめの姿を見付けるが、 一足遅かった。 「かごめーーーーーーっっっっ!!!」 犬夜叉の声もむなしく、そのまま地に倒れ深い眠りについたかごめ。 かごめを抱き留め、鋭い眼差しで白童子を見据えた。 「何をした・・・」 呟くように言葉を吐き捨てる。 「てめえ、かごめになにをした!!!!!!」 弾け飛ぶ犬夜叉の荒々しい声をあざ笑うかのように、白童子は宙にふらりと浮き上がると、 消え去る間際に一言告げた。 「娘の魂・・・なかなか面白い事をしてくれるのだな」 そして禍々しい光と共に白童子はその場から姿を消した。 ぐっと唇を噛み締め、怒りのこもった瞳にかごめの横たわる姿が重なる。 「かごめ・・・かごめ・・・かごめ・・・目を覚ませ・・・かごめ・・・」 何度名前を呼び掛けても、開かぬ瞳。 胸にきつく抱きしめてかごめの髪に顔を埋める。 他の者達は、その光景をただ見つめるしかできない。 何が起こっているのか把握出来ない。 ただ、そこには眠ったままのかごめがいるだけ。 生きているのか・・・それともこのまま永遠に目を覚まさぬのかさえ。 白童子を追わなければ・・・犬夜叉は握りしめた拳を大地に叩きつけた。 ------------------- 正直、経緯と言っても目の前にあった出来事でしかない。 かごめが眠りについてしまった訳を知る者は誰一人居るはずもなく・・・。 「と言うわけで、白童子に何やら仕組まれたのですが・・・」 弥勒がその時の様子を思い浮かべながら一つ一つ語った。 「そうか・・・白童子はそんな事を言っておったのか」 −−−娘の魂・・・なかなか面白い事をしてくれるのだな−−− この言葉に何かある、そう楓は悟った。 「かごめが目を覚まさぬのは何かあるのかも知れんぞ」 「かごめ様が目を覚まさぬ理由ですと?」 弥勒が身を乗り出すように聞き入れる。犬夜叉も耳だけピクッと楓の話に向けた。 「かごめが自ら眠りにつくよう、意志を持ったとしたらどうじゃろ」 「意志・・・ですか」 「そうじゃ、白童子はかごめを操れなかったとしたら・・・。かごめの魂を操るには、魂を汚すこと」 一つ一つ捩れた糸を解くように、順序立てて思考する。 「以前にも同じ様な事があったであろう?」 「そうですね、その時はかごめ様の四魂の玉を感じる事の出来る目を狙った」 「そうじゃ、そこじゃ。わざわざかごめを封じるとは思えん」 「なるほど」 謎は徐々に解けてきたように思えるが、問題はかごめが何故目を覚まさぬのか・・・、 そこを重視することにした。 「おなじ・・・ようなことですか・・・」 その場に居た者は皆、一斉に犬夜叉に目をやった。 「ん?お、俺のせいだって言うのか!?俺はっ・・・何も知らねぇぞ」 腕を組みそっぽを向く犬夜叉は、慌てて思いつくまま記憶を辿った。 俺が原因だって言うのか!?大体、俺が何をしたって言うんだ!? 眉間にしわを寄せ、思考をうねらせる。 この間あいつの持ってきた忍者食全部平らげたことか? それとも、あいつが写ってる紙っぺらみてーな、しゃしんとか言う奴を見て、 あいつの事間抜けな顔してんなって言ったことか? いや、待てよ。もしかしたら・・・あっちの世界に一緒に戻った時、 あいつの部屋にあった、時を知らせる道具、あれをまたぶっ壊したことかもしれねぇ・・・。 「犬夜叉、ずいぶん難しい顔してるね・・・」 「相当思い当たる節があるようですね」 「困ったもんじゃ」 周囲の言葉など耳に入っておらず、顔をしかめたまま立ち上がり無言にして表へと出ていった。 犬夜叉はブツブツと思い当たる事を浮かべながら歩き、気が付くとそこは骨喰いの井戸だった。 その場所にたどり着いた犬夜叉は、さらさらとそよぐ緑の風を受けながら、 一瞬胸が痛むのを感じた。 「いてっ・・・」 ![]() 不意に押さえ付けた手は、50年前桔梗の破魔の矢に打ち抜かれた胸だった。 「俺の心に桔梗の陰がある限り・・・」 確か・・・以前そんな事を言って白童子は消えていった。 あの時も、かごめは闇の心を握られそうになったんだったよな。 ・・・まさか・・・俺が・・・本当にこの俺があいつの闇なのか!? かごめ、もしかして、俺と居ることに嫌気がさしてるのか? 俺が桔梗を忘れないが為に・・・。そうなのか? 教えてくれ・・・頼む、お前の声を・・・お前の笑顔を・・・もう一度・・・。 項垂れる犬夜叉に、再びそよぐ風がやけに空しさを感じさせた。 その夜、犬夜叉はかごめの元へは戻らなかった。 翌日、犬夜叉を除いた一行は再び白童子を捜す決意をした。 「このままでは、本当にかごめ様のお命が危ない」 「うん。白童子を捜さないとね。 こうしてる間も白童子は四魂のかけらを見つけだすかも知れないよ」 珊瑚はかごめの姿を通し、琥珀の事を思い浮かべた。 「本当にあいつは何処へ行ったんじゃ」 「犬夜叉の事です。我々の匂いを嗅ぎ付けて追いつくことでしょう。 先に参りましょう」 「楓様、かごめちゃんをお願いします」 「気を付けて行くんじゃぞ」 旅路へと戻った彼らを見送り、楓は溜め息混じりに呟いた。 「犬夜叉よ・・・お前ががしっかりせねばならぬぞ」 |
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