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+++ 悪夢の園 第十一話 +++

「かごめーーーどこだーーー」
殺風景な岩肌が広がる謎の世界へ踏み込んだ犬夜叉は、
かごめの匂いを求めて駆け回っていった。
腹の傷は治まるどころか、止め処なく血液が溢れていた。
血痕を残してもなお、犬夜叉は休むことなく走り続けた。
「かごめーー!!!」

ふと、遠目に座り込んだままのかごめの姿を見付ける。
ようやく見付けたかごめの姿に笑みさえ浮かべ駆け寄るが、
その姿は一糸纏わぬ生まれたままの姿。
はたと脚が止まった。
露わになったその素肌に、慌てて着ていた衣を脱ぎ捨てた。
「なーにやってんだ、おめえ」
背を向けたまま声を掛けるが返事がない。
「おい、着替えたか?」
恐る恐る振り向くと、そこにかごめだと思ってていた者はなんと桔梗で・・・。


「なっ!?」
「犬夜叉・・・」
「ばっ・・よせって・・・」
迫る桔梗にあくせくする。
そして、何者かの視線を感じる。
その感じる視線を辿り、その者を見付けると犬夜叉は硬直した。

「かごめ!?」



二人の視線が絡み合うと、かごめは逃げるようにその場から立ち去った。
「待て!違う・・これは!!」
その状況で、ふと我に返る。
違う。匂わねえ・・かごめの匂いも、桔梗の匂いも・・・全く感じねえ。
そうか、これが白童子に見せられた映像か。
それに気付くと、目の前に居た桔梗の姿が枯れ枝へと代わり、燃え尽きた。

「あいつ・・こんなもん見せられて、まんまと白童子の罠にはまったって訳か」
そんな独り言を呟き、その事に腹立たしく思えてならなかった。
「かごめのやろう、見つけ出して小突いてやらあ!!」






「きゃ!!」
突然かごめの足下が崩れ始めた。
「何!?今度はなんなの!?」
ガラガラガラ・・・大きな音を立てて地面に亀裂が走る。
「なんだろう。なんだかこの世界が不安定になってきてるわ。
早く出口を見付けないと危ないわね」
そう言い、亀裂を避けるようにまたひたすら走った。
犬夜叉もまた同様、亀裂の走る大地を蹴り付けて走り回っている。

「ん?何かしら?」
かごめが気付いたのは、赤く転々とした血の跡。
まだ新しいわ。怪我してる。誰か近くにいるのかしら?
「誰かーーいるのーーー??」
見渡しても人の気配すら感じない。
でも、あたしの他に誰か居ることは間違いないわね。
そう感じ取ると、血の跡を辿ることにした。

「かごめーーーっっっっ!!」
ふと風の流れを感じる。
「ん!?」
この匂い・・・間違いねえ、かごめだ。
匂いの主を求めて先程より更に力強く駆けだした。
この見渡す限り何もない大地で、かごめが見付けられないはずはない、
犬夜叉はそう思っていた。
例え、何者かに捕らわれていたとしても、無事に助け出す自信はあった。
その根拠は何もないのだが・・・。

互いにその存在を求めて走り続けていたが、その姿すら見付けられぬ。
次第に犬夜叉の額に、苦情の汗が滲んできた。
どうやら腹の傷が堪えているらしかった。
「くそっ、こんな傷如きに・・・」




かごめもまた疲れ果て、息をついて大地へと座り込んだ。
「この血痕・・ここで終わってる・・・」



肩で息を切らせたまま見つめていた血痕から視線を一点反らすと、
そこに不自然な血の跡があることに気付いた。
「なんだろう・・?」
今まで追ってきた血痕より遙かに量が多く、と言うよりも、
どんどんその量は増しているように思えた。
恐る恐るその血の溜まりに触れようと手を伸ばした時、
何か違和感を感じた。
「誰っ!?」


膝を付き、痛みに耐える犬夜叉にもその違和感は感じ取れた。
かごめの匂い・・・こんなに近くに感じるのに・・何でだ。
何で姿を見せねえんだ・・・。
滴り落ちる血にまみれた犬夜叉は、
自らの血の溜まりに何者かの陰が映っているのに気が付いた。
ほっそりとした指先のような陰・・・。
ぼんやりする意識でその陰に触れようと手を伸ばした。


「!!」
かごめは何かに手首を握られた事にひどく驚き、その手を引っ込めようと藻掻いたが
掴んでいる何者かの力によって振り払う事が出来なかった。
「何!?なんなの!?」
そして、ある事に気が付いた。
この爪の感覚・・・これは犬夜叉!?
捕まれた手首に慣れ親しんだ感覚を覚え、
それが犬夜叉の物と思い当たるまでそう時間は掛からなかった。
まさか・・犬夜叉・・・この血は犬夜叉のもの!?

「ねえ、犬夜叉、居るんでしょ?」



「!!」
掴んだ陰に犬夜叉は驚きを隠せなかった。
これは、女の手だ。匂いといい、この腕といい、かごめだ、間違いねえ。
「かごめ!!」
繋がれた手を探る二人。
同じ場所にいて別々の空間の中にいる。
何故か時代の違う二人が、同じ時を共有したいと互いを求めているようだった。



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