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+++ ホワイト・シェル 〜彼女の想い〜 前編 +++

僕の彼女は亜麻色の髪に蒼い瞳のフランス人。
『彼女』だなんて言うのは照れくさいけど、
いつからか分からないけど自然にそう言う関係になっていたんだ。
あ、こんな事言うとフランソワーズに怒られちゃうな(笑)

とにかく、本来なら出逢うはずもない僕らだったけど、ブラックゴーストの目論見で
偶然にも出逢うことになったんだ。
良いのか悪いのか、運命の悪戯は気まぐれだ。

さて、何故僕がフランソワーズのことを語りだしたかはこれから話すけど、
女の子って難しいねー。
僕なりにフランソワーズに接しているつもりなんだけど、
なかなかうまくいかないこともあるんだ。
僕らはこれでも言葉に出さなくても通じ合う、不思議な関係なんだけどね。
そう言う事ってあるでしょ?
でも、今までに一番困った事があったんだ。
それはね・・・・。

__________


いつものようにフランソワーズが朝食を用意して、僕を呼びに来たんだ。
「おはようジョー。朝食の用意が出来てるわ」
「うん、ありがとう。すぐ行くよ」
でもその日のフランソワーズは、いつもと違っていた。
柔らかい朝の日差しに負けないくらい透き通るような笑顔、
その笑顔はいつもより遙かにウキウキしているのが分かった。
「どうしたんだい?フランソワーズ?なんだか楽しそうだね」
フランソワーズの浮かれる姿に釣られて、僕の顔も綻んでいるのが分かった。
でも、僕の言った後に彼女は「そう!?」と、
ちょっと怒ったように見えたのは気のせいだったのか?

「じゃあ、先に行ってるわね」
そう言うと一人でスタスタとダイニングへ向かっていってしまった。
僕は彼女より少し遅れ気味で、おいしそうな香りのするテーブルへ向かった。
イワンは一足先にフランソワーズに抱かれミルクを口一杯に頬張っている。
ギルモア博士が席に着くと朝食の始まりだ。
「いただきます」
食事をひとくち口にして僕は言った。
「んん〜これ、凄くおいしいよフランソワーズ」
その言葉への反応はかなり薄かった。
「あらそう?ありがとう」
ギルモア博士は聞こえない振りで黙々と食事を片づけていた。
僕、何か悪いこと言ったかな?
何故か今朝の食事はみんな黙ったままに終えてしまった。
「ごちそうさま」
博士は研究の続きがあると言い、足早にダイニングを後にする。

そして、後片づけをするフランソワーズを手伝おうと、僕も食器を運びキッチンへ向かった。
ガシャーーーーン☆
「わあ!ごめん!すぐ片づけるよ」
思わず手が滑って食器を落として割ってしまった。
「いいわ。後はわたしがやるから、休んでいて」
くすっと笑う、いつもと変わらないふんわりしたフランソワーズの横顔があった。
「あ、うん。ありがとう」
僕のせいで余計な仕事を増やしてしまった。ごめんよ、フランソワーズ。

その間に僕はイワンの元へ小走りに急いだ。
「ねぇねぇ、イワン」
「ナンダイ?009」
「あのさ〜・・・」と、まだ話が終わってないのに
「イヤダヨ」
「ええ!?」
先に読まれてしまった。僕の心をお見通しなんだ。
どうしてフランソワーズが笑顔になったりちょっと怒った表情をするか訪ねたかったのに。
「ジブンデ ヨク カンガエルンダネ」
「う・・・ん」
すっきりしない気持ちでリビングのソファーに腰掛けた。
頭の後ろで腕を組み、ぼんやりと外の空気の流れを眺めてみた。
もちろん、フランソワーズの事を考えていた訳なんだけど。
後片づけをすまし、「食後のコーヒーはいかが?」と、声を掛けてくれる彼女。
「ありがとう」彼女の顔色を伺い受け取った。
コーヒーカップを手にしたまま、流れる雲をいくつも見送った。
結局のところ理由が見当たらなかった。

そこでフランソワーズを誘い、久しぶりに出掛けることにした。
「何処か行きたいところはある?たまにはどうかな?」
自慢の愛車で好きなところへ連れていってあげようと思った。
その誘いに目を輝かせた彼女が、ほんのり頬を赤らめて答えた。
「まあ嬉しい!待ってて、すぐ着替えてくるわ」

でも、女の子の『すぐ』って一体どの位の時間のことを差すんだろう??
結局一時間ほどリビングのソファーで一人で過ごしてしまった。
冷めたコーヒーカップと一緒に。
もしかして、またお姫様の機嫌を損ねちゃったのかな?と、
心配になってフランソワーズの部屋の前で行き、声を掛けた。
「フランソワーズ?フランソワーズ?まだかい?」
ドアを開けた彼女がちょっと慌てたような感じで僕に訊いてきた。
どうやら、服を選ぶのに時間が掛かってしまったようだ。
「あ、ごめんなさい。ねぇ、この服どうかしら?」
僕はドキッとした。いつもは愛らしい彼女が妙に大人っぽく見えたから。
思わず見とれてしまった・・・と同時にその顔を隠す為に俯いてしまった。
「うん・・・よく似合うよ」
その時の僕には、それだけを言うのが精一杯だったんだ。
それに気付いたかのように彼女は「うふふ」と笑った。
俯いた僕の視線が、丁度彼女の手元にあったので、
その優しい微笑みは、僕のどぎまぎした態度だけに向けられた物じゃないと気付いた。
白い貝殻がほっそりとした彼女の手に包み込まれていたんだ。
ちょっと不思議に思って、彼女の方を向いて問いかけてみた。
「ん?なんだい?」
僕の視線は、また大切そうに彼女の手に包まれた貝殻に落ちた。
が、彼女はすぐに僕を急かすように言う。
「ううん、何でもないの。さ、行きましょ」
あっさりと流されてしまった気もするけど、ま、いいか、と彼女の言葉に続いた。
「そうだね、行こうか」



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