「ん〜どうしよう・・・やっぱり、さっきの方にしておこうかしら」 鏡の前で1時間も洋服に迷ってるの。 だって、今日は久しぶりにジョーとドライブなんだもの。 うふふ。楽しみだわ。 「あ〜でも、どれにしようかしら?やっぱりジョーに見てもらおうかな・・・」 ふと、フランソワーズはドレッサーの横に、大切そうに置いてある クモ貝の一種である白い貝殻に目を向けた。 フランソワーズの部屋の中で彼女が一番、目にふれる、 お気に入りの場所に置かれているその貝殻は、 何の変哲も無いよく見かけられる普通の貝殻である。 でもその貝殻にはある一つの、忘れられない出来事があった。 貝殻に耳を当て目を閉じると、波の音と共にあまりにも鮮明に思い浮かべられる記憶。 それは命の尊さ、重み、大切な仲間たちとの絆、愛する人への想いが、 溢れる泉のように蘇ってくるのだ。 __________ あれは・・・もう、3年前に遡るブラックゴーストとの決戦。 「みんな無事か?」 イワンのテレポーテーションのお陰で海へと運ばれ、 ブラックゴーストの本拠地の爆発から免れたゼロゼロナンバー達とギルモア博士。 だが・・・。 「ジョーは?ジョーはどこなの!?」 フランソワーズの不安げな瞳が辺りを見回している。 「そういや、ジョーはどうしたんだ?」 ハインリヒが言うと、一斉にみなイワンに目を向けていた。 「アソコダ」 イワンの小さな指は空をさした。 「まっ・・・まさか!?」 フランソワーズの声が焦りと不安で上擦っていた。 「ソウダ、ボクガ009ヲ イドウサセタンダ。『BG』ヲハカイスルタメニ」 本拠地が爆発する寸前にスカールは脱出用の魔神像で宇宙へ向かっていたのだ。 みな遥か彼方のジョーを見つめたまま声を発することすら出来なかった。 「だめよ!!そんなこと!!いやよっっ!!」 「シカタノナイコト。ヘイワヲ マモルタメダ」 「そんな!!ひどいわーーーーーー!!!」 フランソワーズは泣き崩れ、その声は静まり返った広い海に広がっていった。 「ちくしょー!」 怒りを何処にぶつけたら良いのか分からないような声で、 突然ジェットが空を睨み、飛び立った。 「待てジェット。もう遅い!!」 ハインリヒが声を張り上げる。 「そうかもしれない。だからって仲間の死を黙って見れいられねー」 「しかし今からでは・・・」 「やってみなきゃわからねーからな」 その言葉を言い終える前にジェットはその場を去った。 「ジェット!!」 ジェットは空へ・・・魔神像へ・・・ジョーの元へ向かって、 死を恐れずにためらうことなく真っ直ぐに姿を消していった。 「フランソワーズ、君はジョーの事が好きだったのかい?」 ハインリヒが訊ねた。 「もちろんよ。みんなだって、好きだったでしょう!?」 潤んだ瞳で強くハインリヒに、仲間たちに聞き返した。 「いや・・・そういう意味じゃなくて」 「・・・・・。 わーーーーー!!!」 その問いに答えるようにフランソワーズは両手で顔を覆い一層泣き崩れ、 誰もその姿に沈黙した。 「ジョー・・・ジェット・・・死なないで」 その頃ジョーはブラックゴーストと命を賭けた最後の戦いに挑んでいた。 この悪を消し去るために、ボロボロになった体で、 ブラックゴーストに立ち向かい、悪に怒りの銃を向けた。 そして最後の一撃を・・・。 ジョーの懇親の一撃で、大きな爆発と共に粉々に散る悪の組織ブラックゴースト。 爆風に飛ばされ、傷を負ったジョーはその流れに身を任せるしかなかった。 「さようなら地球、さようならみんな、さようならフランソワーズ・・・」 消えゆく意識の中でジョーは呟いた。 「ジョー、ジョー聞こえるかい?俺だ!何処にいる!?」 「ジェット?」 ブラックゴーストの屍を蹴散らし、ざわめく塵の中からジョーを見つけ救いだし、 その渦から逃れるようにジェットは、青い地球へと向かい体をよじらせた。 「どうしてここに?」 腑に落ちない面もちのジョーがかすれた声で訊ねた。 「何故かって?聞くまでもないだろうさ」 ふっと笑みを浮かべるジェット。 「だが、俺たちもここでおしまいだな」 「え?」 「もう地球までのエネルギーは残ってないんだ。 地球の重力からの脱出に手間取っちまって」 死を恐れないジェットの余裕の笑みがそこにはあった。 その笑みとは反対に青ざめたジョーがジェットの腕を振り払おうとしている。 「放してくれ。僕を放すんだ!君だけなら助かるかもしれない」 「もう、遅いゼ。地球が迫ってきやがった」 「無駄死にはよせ!!!」 仲間を巻き沿いにしたくないと言う、ジョーの必死の言葉も、 今のジェットには通用しないようだった。 「さて、大気圏突入だ。君は何処へ落ちたい?」 含み笑いのジェットが言う。 「・・・・・」 その問いに、ジョーは何を思ったのだろうか・・・。 |
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