+++ 俺のこころ +++
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BGM スクロールせずにお読み下さい。
すまねえ・・・桔梗。
お前独り、逝かせちまった。
50年もお前を
独りぼっちにしちまったな。
俺はお前との約束を果たす・・・
必ず・・・。
そして、お前と共に、地獄へ堕ちよう。
もう、お前を独りには・・・
しねえ。
俺は、
夜の静寂に瞳を閉じて、
その時を待つ。
その場所は桔梗と別れた、
御神木の元。
そして、かごめと出逢った
運命の場所。
さらさらと流れる初夏の風。
心に宿る甘く切ない想い。
犬夜叉の心を
呼び覚ますかのように、
包み込む柔らかな微笑み。
かごめ・・・。
そうだ、俺は・・・かごめ、
お前も、悲しませちまうんだな。
でも、いいだろ?
お前には、お前の国があって、
お前を待っているやつがいる。
桔梗には・・・
もう俺しかいねえ・・・。
だから、許してくれ。
このまま、俺を眠らせてくれ。
お前の事は、忘れねえ・・・
忘れるもんか。
かごめ、俺は・・・
俺は・・・・・・・・。
再び戦ぐ風に、
犬夜叉はふと、眼を開ける。
ぼんやりと映るその姿は、
紛れもなく愛しい女。
「犬夜叉・・?」
「か・・ごめ・・・」
二人を沈黙の風が包む。
切なく募る想いが
涙となって降りそそぐ。
かごめの瞳から溢れる泉は、
止め処なく頬を伝う。
「あたしじゃ、
犬夜叉を止められないの?」
「かごめ・・」
「あたし、犬夜叉を逝かせたくない・・」
俺は言葉に出来なかった。
なんて答えたらいんだ・・・。
俺はこの期に及んで、迷った。
かごめを置いて逝けるのか。
俺は、
お前の存在が全てだと思った。
そう思って今まで生きて来れたんだ。
俺はお前の事が・・・。
だめだ。
すまねえ、
やっぱり言えねえ。
どうしても・・・言えねえ。
俺はもう、決めちまったんだ。
桔梗と逝くって。
そんな目で見るな。
泣くんじゃねえ。
俺だって、
お前を悲しませたくねえんだよ。
頼むから解ってくれよ。
「犬夜叉・・逝かないで・・・。
お願い・・
あたしを置いてかないで・・」
犬夜叉にすがるように
寄り添うかごめ。
愛しい女の柔らかな髪を撫で、
涙でびしょ濡れになった頬を拭う。
「なあ、かごめ。
俺はこの戦国時代で生きてきた。
お前にはお前の国がある。
ここは、俺の国だ・・・。
そして、桔梗も・・・」
「・・・解ってる。
でも、犬夜叉、でもね、
あたしだって、
一緒にこの時代を生きてきたの。
あの井戸を通って、
犬夜叉の側で、生きてきた。
この先も犬夜叉と一緒に・・・
いたいの・・」
俺の胸元に
必死にしがみつくこの女を、
俺は愛しくてたまらなかった。
このまま、時が止まればいいと思った。
確か・・・あの時、
桔梗ともそう思った事があった。
けど違う。
あの時と、今の俺の気持ちが違う。
俺は、
かごめ、
お前が・・・
お前の事が・・・。
そして、俺は静かに目を閉じた。
深く深く、
何処までも続く闇の中へ。
冷え切った氷の渦の中へ。
かごめが俺の名を呼びながら、
泣いている。
そんな声が意識の奥の、
何処か遠くで聞こえていた。
すまねえ・・・
俺はお前が・・・・・・・・・・。
闇の中、ぽうっと照らされた、
小さな灯り。
懐かしい温もりに包まれ、
俺は我に返る。
桔梗・・・。
「ばかもの」
あの世で出逢った桔梗は、
真っ先に俺にそう言った。
なんだよ、お前、
俺がこうしてここに居るってのに。
「犬夜叉、
お前は心を
何処に忘れてきた?」
「何言ってんだ。
桔梗・・・俺は、
お前との約束を果たす為に・・・」
「そんな約束をした覚えは
ない。
お前は、
お前の心を
置いてきてしまった」
「こころ?」
「帰れ・・・」
「何だよ、何言ってんだよ!!」
「帰れ・・・」
俺は、そこで動けなくなった。
声も出ねえ。
桔梗は俺を残して、背を向けた。
そして、独り、
また独りで、
何処かへ消えていく。
待てよ。
桔梗・・・
俺はお前を独りにしねえって・・・。
おい・・・。
「お前を独りにしねえっ・・・・」
「犬夜叉?」
目が覚めた。
俺は夢を見ていた?
かごめが俺を
心配そうに覗き込んでる。
俺、生きてんのか?
「かごめ?」
「なに?」
「俺、何か言ってたか?」
「ううん・・何も」
嘘だ。
かごめの頬に、涙の跡がある。
「かごめ?」
「なに?」
「俺の心・・・」
「うん・・・?」
「・・・・・・」
「知ってるよ。
置いていっちゃったんだよね」
「あん?」
「あたしが大事に預かってるよ・・・
ほら・・・」
かごめの両手が俺に向けられた。
何かを包み込んだまま、
そして俺の目の前でそっと開いた。
「ね?
犬夜叉の・・・
心だよ・・・」
それは、確かに俺の心だった。
かごめは、また小さな涙を流した。
「かごめ・・・」
目の前の、愛しい女を、
俺は離したくないと思った。
二度と・・・離したくない・・・と。
俺は、
力一杯抱き締めた。
犬夜叉・・・
苦しいよ。
けっ
うるせえ・・・
── fin ──